本論文は、卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率について、ボローニャ分類とPOSEIDON分類を比較したものです。
Fertil Steril 2023; 120: 605(米国、スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.05.007.
Fertil Steril 2023; 120: 615(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.06.028
要約:2019〜2021年に米国のひとつの施設で採卵およびPGTを実施した4,928名、6,889周期のうち、ボローニャ分類およびPOSEIDON分類(I、II、III、IV)により卵巣反応不良(POR)と診断された方の正常胚率について後方視的に検討しました。1周期あたりの成績は下記の通り。
PORSEIDON分類 症例数 胚盤胞数 正常胚数 正常胚率/周期 1つの正常胚獲得率/全周期
非PORSEIDON 3,236 6.8個 4.5個 68.4% 91.9%
PORSEIDON I 100 5.1個 3.7個 78.3% 97.0%
PORSEIDON II 222 3.5個 1.9個 50.4% 77.9%
PORSEIDON III 817 2.1個 1.6個 60.2% 70.5%
PORSEIDON IV 2,514 1.6個 0.8個 32.9% 44.8%
ボローニャ分類 症例数
非ボローニャ 5,277 5.1個 3.4個 63.4% 84.0%
ボローニャ 1,612 1.2個 0.5個 23.3% 31.9%
なお、採卵数は卵巣予備能と相関し、正常胚率は年齢と相関しました。
解説:卵巣予備能低下(DOR)はART(体外受精、顕微授精)の卵巣刺激に対する卵巣反応不良(POR)をもたらし、生殖に影響を与えます。現在、POR に関する研究の母集団を均一化するため、ボローニャ分類とPOSEIDON分類が用いられています。本論文は、卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率について、ボローニャ分類とPOSEIDON分類別に後方視的に検討したものであり、POSEIDON I分類は非PORSEIDONと同等であり、PORとみなすべきではないとしています。また、正常胚率は、PORSEIDON分類 II >III >IV>ボローニャ分類となります。
コメントでは、卵巣反応不良(POR)の管理は大きな課題であり、2011年に欧州生殖医学会(ESHRE)がボローニャ分類が登場しました。さらに、ボローニャ分類の欠点を補うべくPORSEIDON分類が2016年に登場しました。しかし残念ながら、ボローニャ分類もPORSEIDON分類も臨床の現場にはほとんど組み込まれていません。本論文をきっかけにPOR研究が活性化されることを期待するとしています。
ボローニャ分類 2011(以下の3項目のうち2項目をみたすもの)(Hum Reprod 2011; 26: 1616)
1)40歳以上、あるいは他のPORリスク因子(ターナー症候群、FMRI遺伝子変異、卵巣手術既往、抗がん剤治療後など)
2)刺激周期の採卵にて3個以下の卵子回収
3)AMH < 0.5~1.1 ng/mL、あるいはAFC(胞状卵胞数)< 5~7個
POSEIDON分類 2016(Fertil Steril 2016; 105: 1452)
POSEIDON 1群:35歳未満、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上
1a群:卵巣刺激での採卵数3個以下
1b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個
POSEIDON 2群:35歳以上、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上
2a群:卵巣刺激での採卵数3個以下
2b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個
POSEIDON 3群:35歳未満、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満
POSEIDON 4群:35歳以上、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満
下記の記事を参照してください。
2021.8.18「☆POSEIDON分類による採卵1回あたりの出産率は?」
2021.6.23「POSEIDONクライテリアでのAMHとAFCの一致率は?」
2021.6.19「卵巣反応不良の方の出産率予測式:PROsPeRスコア」
2019.7.4「卵巣機能低下の方で妊娠成績を最も左右するのは?」
2015.1.7「卵巣反応不良の方へ新しい刺激の試み」
2014.1.18「☆卵巣反応不良の場合の対処法」
2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア」