☆卵巣反応不良の場合の対処法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

誰でも加齢とともに卵子の数が少なくなり卵巣反応が不良になります。そんな時、お手上げ状態になってしまうのですが、何とかできないかというのが今回ご紹介する論文です。本論文は、前周期の黄体期からのエストラジオール(E2)投与を行った場合に、採卵周期のキャンセル率が低下することをメタアナリシスにより示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2981(米国)メタアナリシス
要約:卵巣反応不良の場合に、前周期の黄体期からE2を用いた群と用いない群で比較した8論文メタアナリシスにより検討しました。E2非投与群(621名)と比べ、E2投与群(468名)では、採卵のキャンセル率が0.6倍と有意に低く、妊娠率(胎児心拍確認)が1.33倍有意に高くなりました。しかし、成熟卵数や受精卵数には有意差を認めませんでした。

解説:かつては卵巣反応不良(poor responder)の定義がしっかり決まっていませんでしたので、今回の論文で取り上げた8論文もバラバラの選択基準に基づいています。したがって、メタアナリシスによる検討でも断定的なことが言えないという弱みがあります。実際に今回の8論文では、前回の採卵数が2~5個以下、最大E2が500~1000未満、刺激開始時のFSHが10~12以上の方を対象としており、論文によって大きな違いがあります。含まれる症例数も54~285名と比較的小規模な研究となっています。また、使用したE2製剤も内服から経皮製剤と様々で、使用量も0.1~4mgと幅があります。さらに、前周期の黄体期からE2のみならずGnRH-antagonistを使用しているケースもあります。

前周期の黄体期からE2を使用するのは、刺激開始時点でFSHが高い状態であることを防ごうという発想から生まれています。GnRH-antagonist使用も同じ目的です。しかし、FSHをいくつに調節したらよいのかなど、具体的な方法は明らかにされていません。卵巣反応不良の方へのE2製剤使用(プレマリン、ジュリナ、エストラーナなど)を否定的に考えている医師もおられますが、本件についてこれまでははっきりとした根拠がありませんでした。したがって、本論文が示すデータは、その根拠を示したものとして重要なものと考えます。

卵巣反応不良の定義「ボローニャ•クライテリア」は、2011年に発表されました(2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア」で紹介しています)。
以下の3項目のうち2項目をみたすものをいいます。
1)40歳以上、あるいは他のPORリスク因子(ターナー症候群、FMRI遺伝子変異、卵巣手術既往、抗がん剤治療後など)
2)刺激周期の採卵にて3個以下の卵子回収
3)AMH < 0.5~1.1 ng/mL、あるいはAFC(胞状卵胞数)< 5~7個
しかし、実際にこれを用いて厳密に定義した基準で論文を選択すると、今回のメタアナリシスでは使える論文が無くなってしまいます。このあたりが今後の検討課題となります。