卵巣反応不良の方へ新しい刺激の試み | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

卵巣反応不良の方へ新しい刺激の試みとして、ひとつ論文をご紹介したいと思います。キーワードは「LH製剤」です。本論文は、LH製剤を使用した後にFSH製剤の刺激を行うと良好な成績が得られることを示しています。まだ、パイロットスタディーの段階ですが、卵巣刺激の初期にLHが必要であるという事を意味しており、非常に興味深い報告だと思います。

Biomed Res Int 2014: 926172. Epub 2014 Aug 12(モンテネグロ)
要約:2008~2010年に体外受精を実施した方で、ボローニャ•クライテリアを満たす卵巣反応不良の方(少なくとも2回以上の採卵周期キャンセルあるいは採卵数3個以下)43名(38歳以下)に対して、FSH製剤400単位連日投与(A群)とLH製剤150単位4日間使用した後にFSH製剤400単位連日投与(B群)の2群にランダムに分け成績を比較ました。A群と比べB群では、採卵数(2.4個 vs. 3.5個)、分割率(71% vs. 91%)、移植率(48% vs. 77%)、着床率(6% vs. 29%)、生産率(5% vs. 32%)が有意に良好な成績となりました。また、卵巣反応不良の方65名に対して、従来の刺激(A法)と新しい刺激(B法)の成績を後方視的に比較したところ、着床率(4% vs. 22,3%)、出産率(0% vs. 24%)ともにB法が良好でした。

解説:卵巣刺激中のLHの重要性について、私は再三ブログ内で紹介してきましたが、それでもなお「hMG・hCGは卵子の質が悪くなる」という話がネット上に多数みられ一部の方で信じられています。しかし、この話の根拠を明らかに示した論文は、私の知る限りではありません。一方、hMG製剤(LHとFSHを含む)とhCGトリガーが卵巣反応不良の方の卵巣刺激に重要であるという論文が最近多く発表されています。本論文は、卵巣反応不良の38歳以下の方では、FSH刺激の前のLH刺激が有効であることを示しています。採卵数は1個増えただけですが、良好胚が増えたため移植率や着床率、生産率が改善された、つまり量ではなく質の改善に有効であると考えます。

卵巣反応不良の方に対する卵巣刺激について「最適な方法」は明らかではありません。したがって、様々なトライアルが行われてきました。本論文の方法は、前胞状卵胞と胞状卵胞にはアンドロゲン(男性ホルモン)増加が必要であり、アンドロゲンを増やす薬剤としてLHに着目したものです。これまでに下記の事実が報告されています。
<アカゲザル、霊長類>
1 前胞状卵胞と胞状卵胞の顆粒膜細胞にはアンドロゲン受容体が豊富である
2 アンドロゲンが豊富に存在すると初期の卵胞発育、前胞状卵胞と胞状卵胞数の増加、顆粒膜細胞の増殖が起きる
3 卵巣内のアンドロゲン増加により顆粒膜細胞のFSH受容体が多く発現される(その結果、FSH刺激に反応しやすくなる)
<マウス、ヒト>
4 アンドロゲン受容体とFSH受容体には正の相関がある 
5 LH受容体は加齢により減少する

LH製剤とLH含有hMG製剤については、下記の記事も参照してください。
2014.12.30「☆最適な刺激(LH/FSH=0.3~0.6)」
2014.7.20「Q&A399 LH含有hMG製剤の成績が良いのは?」

ボローニャ•クライテリアについては、下記を参照してくださ。
2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア」