☆最適な刺激(LH/FSH=0.3~0.6) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

FSHが卵胞発育に必要なホルモンであるとの考えから、リコンビナントFSH製剤が誕生しました。しかし、卵胞発育にはLHも必要であり、近年登場したリコンビナントLH製剤をFSH製剤と同時に使用すると卵胞発育が良好になるという報告が最近みられるようになってきました。そのため、従来から用いられていたhMG製剤(LHとFSHを含む)の価値が見直されています。本論文は、刺激中のLHとFSHの最適な配合比を検討したもので、LH/FSH=0.3~0.6が望ましいとしています。

Fertil Steril 2014; 102: 1312(米国)
要約:1999~2013年に体外受精を実施した方10,280名に使用したLH/FSHとhCG投与日のP値後方視的に検討しました。FSH含有量は、FSH製剤とhMG製剤のそのものの単位数で現し、LH含有量は、hMG製剤75単位をLH75単位とし、hCG製剤10単位をLH75単位としました。LH/FSHは刺激に使用した全ての製剤の合計量で割り算して算出しました。P>1.5となる確率が最も高いのはLH=0(FSH製剤単独)の場合で、最も低いのはLH/FSH=0.3~0.6となりました。P>1.5となるリスクは、LH/FSH=0.3~0.6の場合と比べ、LH/FSH<0.3の場合に1.6倍、LH/FSH>0.6の場合に1.1倍に有意に増加しました。これは、卵巣反応が良好、普通、不良のいずれの場合にも一致しました。

解説:新鮮胚移植では、hCG投与日のP>1.5の場合に妊娠率が低下することが知られています(2014.10.13「☆新鮮胚移植の条件」を参照してください)。P>1.5はFSH製剤単独で刺激した際にしばしば見られる現象であることが報告されています。このような背景から、本論文の研究が行われました。本論文は、LHとFSHの最適な配合比は0.3~0.6が望ましいことを示しています。

そもそも、生体内ではFSHとLHが常に分泌されており、その状態で卵胞発育が起こります。したがって、FSH製剤単独では生理的な状態ではありません。リコンビナントFSH製剤が誕生した背景には2つの大きなポイントがあります。
1 hMG製剤は更年期以降の女性の尿から精製されるため、不純物の混入が避けられない
2 hMG製剤は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがある
1に関しては、不純物を減らす努力により大幅に改善されていますが、精製の由来から敬遠される方も少なくありません。2に関しては、OHSSの予防策がしっかり取れるようになっていますので、実際は大きな心配はありません(2013.1.14「☆OHSSの予防」の記事を参照してください)。
リコンビナント製剤は、遺伝子操作によって大腸菌等の遺伝子の一 部に目的とする遺伝子を導入し、必要な目的物質を分泌させて製造した製剤で、遺伝子組換え製剤の一種です。リコンビナント製剤の純度は100%ですが、費用が割高です。FSHもLHもリコンビナント製剤を用いると極めて高額な刺激になりますが、同じ刺激をhMG製剤で行えば、比較的安価にできます。

本論文が示すLHとFSHの配合比は、薬剤の選択の際に非常に重要な情報であると考えます。生体は機械とは異なり、それぞれの周期によってホルモンバランスが違っています。それぞれの周期に合わせた刺激が重要であると考えますので、私は刺激中のLHとFSHのバランスを見て、刺激内容の変更を行っています。hMG製剤は、LH/FSHの配合比が異なる薬剤が発売されていますので、その組み合わせを工夫することで、最適なバランスにすることが可能です。