本論文は、卵巣反応不良(POR: poor ovarian response)の方の出産率予測式(PROsPeRスコア)に関する検討です。
Hum Reprod 2021; 36: 1600(フランス)doi: 10.1093/humrep/deab050
要約:フランスの8箇所の施設で採卵を実施するボローニャクライテリアを満たすPORの8025周期とESPARTスタデイのPORの477周期を対象にPROsPeRスコアの信頼性について検討しました。
ESHREボローニャクライテリア2011(Hum Reprod 2011; 26: 1616)
PORは、以下の3項目のうち2項目をみたすものとする
1)40歳以上、あるいは他のPORリスク因子(ターナー症候群、FMRI遺伝子変異、卵巣手術既往、抗がん剤治療後など)
2)刺激周期の採卵にて3個以下の卵子回収
3)AMH < 0.5〜1.1 ng/mL、あるいはAFC(胞状卵胞数)< 5〜7個
POSEIDON分類2016(Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)(Fertil Steril 2016; 105: 1452)
POSEIDON 1群:35歳未満、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上
1a群:卵巣刺激での採卵数3個以下
1b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個
POSEIDON 2群:35歳以上、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上
2a群:卵巣刺激での採卵数3個以下
2b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個
POSEIDON 3群:35歳未満、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満
POSEIDON 4群:35歳以上、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満
ESPARTスタディ2017
1)40歳
2)刺激周期の採卵にてキャンセルあるいは3個以下の卵子回収
3)AMH 0.12〜1.3 ng/mL
PROsPeRスコア* 出産率の計算式
0 LB1 = LBc/(p0+p1/3+p2/9)
1 LB2 = LB1÷3
2 LB3 = LB2÷3
*40歳以上、初回採卵ならAMH<0.5 ng/mL、2回目以降の採卵なら初回採卵で回収卵子1個とし、各項目を1点と計上し、合計の点数をPROsPeRスコアとする
LBc = 過去1年間に当該施設でARTを実施したPORの方の出産率
p0、p1、p2 = 過去1年間に当該施設でARTを実施したPROsPeRスコアが0、1、2点の方の比率
この計算法による出産率予測は、フランス8箇所のデータでAUC 0.688、ESPARTスタディででAUC 0.695となりました。
解説:PORはART(体外受精、顕微授精)治療中の方の6〜35%と報告されています。現在、PORの診断には、ボローニャクライテリアとPOSEIDONクライテリアが用いられています。ART治療の妊娠率予測モデルとして、35種類が報告されていますが、最も良いモデルはMcLernonの計算式です(Hum Reprod 2020; 35: 100)。しかし、これはPORの方を想定したものではありませんでした。本論文は、PORの方の出産率予測式(PROsPeRスコア)を示したものであり、非常に優れた予測率を示しています(AUC 約0.7)。しかも、当該施設のART成績を元にして計算しますので、その施設に見合った数値が出てくる点で優れものです。
ボローニャクライテリアについては、下記の記事を参照してください。
2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア」
POSEIDON分類については、下記の記事を参照してください。
2019.7.4「卵巣機能低下の方で妊娠成績を最も左右するのは?」
McLernonモデルについては、下記の記事を参照してください。
2020.2.13「体外受精出産率の予測のベストモデルは?」
2016.1.13「体外受精の出産率の予測計算式からわかること」