Q&A2964 中隔子宮手術の意味はめっちゃある! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 何年も自然妊娠しないし、中隔子宮で流早産率も高いならステップアップできないと思っていたし、妊娠しても流早産なら後悔するし、しなくてもこのままでは後悔する。「もう性格の問題だから、あなたの場合は手術したら?そんな難しい手術じゃないし紹介状を書くよ」と、悩みを打ち明けたクリニックの先生に言われて手術しました。

私の場合、排卵誘発剤でも排卵は1個ばかりで、人工受精はほとんど意味なく、体外受精に移行。5個採卵でき、1個質が高く、1個まぁまぁ、1個が前核が3つの状況で、最も質が高い胚を戻したところ一卵性の双子になりました。中隔子宮をそのままにしていたら妊娠継続が厳しかったと思います。

しかも産科で双胎間輸血症候群(TTTS)になりそうだと言われ、TTTS手術ができる医療センターで入院。胎内治療の先進病院で毎日エコー&モニターを付けて経過観察。ギリギリのところでTTTSでなく不育だろう、と手術しなくて済むかと思われましたが、羊水が少ない子が臍の緒を三重に巻き、苦しくてさらにどんどん羊水が減る状況に。とうとう羊水が0になり、もう1人の子の羊膜を破って羊水0の子の方へ羊水を流し、スペースができた所へ羊水注入する処置(先進すぎて手術認定されてない)を行ってもらいました。お腹のハリも酷くて超未熟児を出産できる病院は県内に1つしかなく、そこに救急搬送されて帝王切開になるかもと言われました。ハリも落ち着いて大丈夫かと思った矢先、朝は心拍が確認できていたのに午後には1人しか確認できず、大きい子の方が胎内死亡でした。このままだと死後硬直も始まり2人とも死亡するけど、今ならもう1人は帝王切開で助かるかもと言われ、緊急搬送され26週4日575gで息子が生まれました。3日が山と言われたし、3日目に脳内出血もしてるけど、障害はなく4月で5歳になりました。中隔子宮の手術をしてもこの小ささ。してなかったら生きてなかったと思います。

双子が無事に生まれたら、残りの凍結胚は戻さないと思っていたけど、超未熟児でも息子は可愛いし、前核が3つの胚は怖くて戻せないけど、残り1個の胚を最後に戻す事にし、成功。現在3歳の娘がいます。

手術しなかったら双子は生きれなかったし、そもそも体外受精にステップアップできなかったと思います。関東に住んでた頃は「妊娠率ばっかり考えるクリニックはもう嫌。妊娠したいわけじゃなく、無事に出産したいの!」と不信感があったので。性格的にも私のような方には手術が良いと思うので、こういう例もあると言いたくて。長々すみません。

 

A まさに、エビデンス治療とプレシジョン治療の典型例だと思います。統計的にはオペの意味はない、個別にはオペの意味があるということです。

 

エビデンス治療とプレシジョン治療については、下記の記事を参照してください。

2021.6.1「☆エビデンスの落とし穴

2021.6.1「☆中村祐輔さんの主張:エビデンス重視は思いやりを失う

 

中隔子宮については、下記の記事を参照してください。

2021.6.17「Q&A2963 中隔子宮が不育症の原因だが手術は勧めない

2021.5.14「☆☆中隔子宮は手術すべきか:ランダム化試験

2020.8.13「☆中隔子宮は治療すべきか?

2018.5.12「弓状子宮は正常胚の妊娠成績に影響しない

2018.5.3「弓状子宮の分類について

2016.9.24「中隔子宮のガイドライン(ASRM)

2015.11.29「子宮形態異常(子宮奇形)の妊娠経過

2015.4.7「子宮形態異常の分類の違い(ASRM vs. ESHRE)

2014.2.6「☆子宮形態異常の妊娠への影響は?

2013.8.30「☆子宮形態異常の新分類

2013.7.8「☆見逃しやすい子宮と膣と腎臓の形」

なお、このQ&Aは、約1ヶ月前の質問にお答えしております。