子宮形態異常の分類の違い(ASRM vs. ESHRE) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会(ASRM)1988年に子宮形態異常の分類を提唱し四半世紀が経過しました。一方、ESHRE(欧州ヒト生殖医学会)とESGE(欧州婦人科内視鏡学会)2013年に新しい分類を発表しました(2013.8.30「☆子宮形態異常の新分類」を参照してください)。本論文は、両者の評価方法の違いのため、ESHRE分類で過剰診断(過剰診療)が生じる危険性を示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 569(ポ-ランド)
要約:2013年に3D超音波により子宮形態を描出した261名の子宮形態を、ASRMおよびESHREの分類にあてはめ前方視的に評価しました。中隔子宮と分類されたのは、ASRM分類で6.1%、ESHRE分類で16.9%と有意差を認めました(ESHRE分類で2.74倍多い)。少なくともひとつの子宮形態異常が認められたのは、ASRM分類で16.5%、ESHRE分類で22.2%と有意差を認めました(ESHRE分類で1.35倍多い)。

解説:ASRMおよびESHREの分類の違いは、子宮内への突出を判断する子宮底部の基準となる位置が異なるためで、ESHREの分類では軽度の突出も中隔子宮と診断されてしまうことによります。中隔子宮は手術により切除することになりますので、ESHREの分類を用いると2.74倍多くの方が手術をすることになります。これは非常に問題であり、本論文の著者は早急な改善を求めています。本論文が掲載された雑誌がまさにESHREのオフィシャルジャーナルですので、おそらく近いうちに改善されるものと思います。

ASRM分類は27年前、ESHRE分類は2年前のものです。ASRM分類の主観的な判断を客観的にしようという意図で作成されたのがESHRE分類です。本論文は、主観の方が結果的に臨床の実情に即していることが明らかになったことを示しており、何だか不思議な感じがします。