本論文は、中隔子宮は手術すべきかについて実施されたランダム化試験です。
Hum Reprod 2021; 36: 1260(オランダ、英国、米国、イラン)doi: 10.1093/humrep/deab037
Hum Reprod 2021; 36: 1166(イタリア)コメント doi: 10.1093/humrep/deab081
要約:2010〜2018年に4カ国10施設で中隔子宮と診断された方80名を対象に、子宮鏡下中隔切除術を実施する方としない方の2群にランダムに分け、妊娠成績を前方視的に検討しました(TRUSTスタディ=The Randomized Uterine Septum Trial)。なお、妊娠継続率は妊娠24週以降の継続としました。結果は下記の通り(全ての項目で有意差なし)。
ITT解析 オペ実施 オペなし
出産率 31%(12/39) 35%(14/40)
妊娠継続率 33%(13/39) 35%(14/40)
臨床妊娠率 56%(22/39) 48%(19/40)
流産率 28%(11/39) 13%(5/40)
早産率 13%(5/39) 10%(4/40)
PPT解析 オペ実施 オペなし
出産率 33%(12/36) 36%(12/33)
妊娠継続率 36%(13/36) 36%(12/33)
臨床妊娠率 58%(21/36) 52%(17/33)
流産率 28%(10/36) 15%(5/33)
早産率 14%(5/36) 12%(4/33)
また、オペを実施した1例で子宮穿孔が生じました。
解説:中隔子宮は、0.2〜2.3%にみられる比較的稀な疾患です。米国生殖医学会(ASRM)は手術(子宮鏡下中隔切除術)を推奨し、欧州生殖医学会(ESHRE)は手術を推奨していません。最近報告されたコホート研究(N=257名)では、手術による妊娠率、流産率、早産率の改善が認められませんでした(2020.8.13「☆中隔子宮は治療すべきか?」でご紹介しました)。本論文は、中隔子宮の手術について実施されたランダム化試験であり、中隔切除術の有無で妊娠予後は変わらない(つまりオペは不要)ことを示しています。症例数は少ないですが、初めてのランダム化試験であり、極めて信頼度の高い研究です。
コメントでは、待ちに待ったランダム化試験がついに発表されたことを賞賛し「中隔子宮のオペのメリットがない、あるいはほとんどない」ことを患者さんに説明しなければならないとしています。
これで、子宮形態異常の場合のオペの選択肢は全て消えました(双角子宮、単角子宮、重複子宮は従来からオペができないかメリットがないものであると確定しています)。子宮卵管造影検査を実施しても治療の選択がないことになります。これは、夫婦染色体検査を実施しても治療法がないことと同じ扱いになります。
下記の記事を参照してください。
2020.8.13「☆中隔子宮は治療すべきか?」
2018.5.12「弓状子宮は正常胚の妊娠成績に影響しない」
2018.5.3「弓状子宮の分類について」
2016.9.24「中隔子宮のガイドライン(ASRM)」
2015.11.29「子宮形態異常(子宮奇形)の妊娠経過」
2015.4.7「子宮形態異常の分類の違い(ASRM vs. ESHRE)」
2014.2.6「☆子宮形態異常の妊娠への影響は?」
2013.8.30「☆子宮形態異常の新分類」