弓状子宮は正常胚の妊娠成績に影響しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、弓状子宮は正常胚の妊娠成績に影響しないことを示しています。

 

Fertil Steril 2018; 109: 638(米国)

Fertil Steril 2018; 109: 610(ベルギー)コメント

要約:2014年にPGSを実施した方432名を対象に、3D超音波と子宮鏡検査を行って弓状子宮の有無を診断し、妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、弓状子宮の診断は、両側の卵管角を結んだラインと子宮内腔の子宮底部との距離が4〜10mmかつ子宮内腔の子宮底部の角度が90度以上のものとしました。なお、ドナー卵子、子宮内の他の異常所見、子宮手術既往のあるものは除外しました。弓状子宮78名83回胚移植と正常子宮354名378回胚移植の妊娠成績をを比較したところ、着床率(63.7% vs. 65.4%)、出産率(68.7% vs. 67.8%)、化学流産率(8.4% vs. 7.7%)、流産率(4.8% vs. 4.3%)に有意差を認めませんでした。

 

解説:2016年に米国生殖医学会(ASRM)から中隔子宮や弓状子宮のガイドラインが発表され、2016.9.24「中隔子宮のガイドライン(ASRM)」の記事でご紹介しました。本論文はこのガイドラインを元に弓状子宮を診断し妊娠成績を後方視的に検討したところ、弓状子宮による妊娠成績の影響はないことを示しています。弓状子宮については、定義も様々でASRM(米国)とESHRE/ESGE(欧州)で異なり現在も議論が白熱しています(2018.5.3「弓状子宮の分類について」の記事でご紹介しました)。しかし、一致しているのは、妊娠には影響はないというものです。本来なら前方視的検討が必要ですが、やはり弓状子宮には病的意義はないと考えて良さそうであり、コメントにもそのように記載されてあります。

 

なお、このような着床率、流産率、化学流産率を評価する研究は正常胚で行わなければ意味がありません。これまでに構築された生殖医療の常識は正常胚も異常胚も全て含んだ検討でしたので、正常胚で行うことにより新しい判断基準(診断および治療)が生まれる可能性があります。

 

下記の記事を参照してください。

2018.5.3「弓状子宮の分類について

2016.9.24「中隔子宮のガイドライン(ASRM)

2015.11.29「子宮形態異常(子宮奇形)の妊娠経過

2014.2.6「☆子宮形態異常の妊娠への影響は?