本論文は、年齢によるモザイク現象の頻度を検討した横断研究です。
F&S Rep 2023; 4: 256(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2023.03.008
F&S Rep 2023; 4: 251(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2023.07.001
要約:2019〜2021年に17,366名の女性(18〜46歳)から得られた86,208個の胚盤胞を対象に、NGS法でPGTを実施しモザイク胚の頻度を検討しました(横断研究)。なお、モザイクは、低レベル(20~40%)と高レベル(40~80%)に分類しました。結果は下記の通り。全体として、モザイク現象は若年女性ほど高率で、モザイクの複雑さは加齢とともに増加しました。
全症例 <35歳 35~37歳 38~40歳 41~42歳 42〜46歳
正常胚 43.9% 57.7% > 51.4% > 41.4% > 27.2% > 16.4%
モザイク胚(低) 7.9% 10.4% > 9.1% > 7.5% > 5.4% > 3.0%
モザイク胚(高) 7.9% 8.5% > 8.2% > 7.9% > 7.6% > 5.5%
異常胚 27.9% 16.8% < 23.0% < 32.0% < 41.6% < 42.0%
複合異常 12.3% 6.6% < 8.3% < 11.3% < 18.2% < 33.2%
解説:PGTが世界中で普及していますが、現在のNGS法は感度が高いため、モザイク現象が検出されてしまいます。モザイク胚は、染色体の不分離や細胞分裂のエラーによる可能性もありますが、アーチファクト(検査の誤差)の可能性もありますので、必ずしも異常とは言えません。実際にモザイク胚の移植により、染色体が正常な健常児が数多く誕生しています。2021年、着床前遺伝子診断国際協会(PGDIS)は、モザイクのカットオフ値として20~80%を推奨しましたが、この正当性については証明されていません。モザイク胚を移植しないのであれば、赤ちゃんになれる胚をみすみす逃してしまうことになります。モザイク胚を移植すれば、移植に利用できる胚の総数が増えるため、採卵あたりの出生率が向上する可能性があります。 しかし、どの程度のモザイク胚を移植を移植すべきかについてはデータが不足しています。
コメントでは、モザイク現象は一般的であり、モザイク胚を移植しなければ、多くの患者さんが正常胚を移植できないまま治療を終了してしまっている現実を嘆いています。 実際に、42歳以上では36.7%で正常胚が見つかりませんが、モザイク胚を含めると移植可能な胚が52%増加します。 若年者においても、7.4%で正常胚が見つかりませんが、モザイク胚を含めると移植可能な胚が33%増加します。高レベルのモザイク胚は着床率が低い可能性がありますが、0%ではなく、多くの健康な赤ちゃん現在誕生しています。