PGTによる周産期リスクは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PGTの有無による周産期リスクの違いを比較したものです。

 

Fertil Steril 2022; 117: 562(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.12.020

Fertil Steril 2022; 117: 571(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.01.019

要約:2017〜2020年単一胚盤胞移植を実施した方で単胎妊娠が成立し出産に至った方を対象に、PGTの有無による周産期リスクの違いを後方視的に検討しました。また、後方視的検討による選択バイアスリスク軽減のため、propensity score-matching(PSM、傾向スコアマッチング)法を用いて分析しました。非PGT群(67/2829=2.4%)と比べ、PGT群(12/232=5.2%)で妊娠高血圧のリスクが2.58倍(95%信頼区間:1.32〜5.05)有意に高くなっていました。PSM法を実施後も同様に、非PGT群(14/617=2.3%)と比べ、PGT群(11/214=5.1%)で妊娠高血圧のリスクが2.33倍(95%信頼区間:1.04〜5.22)有意に高くなっていました。なお、その他の周産期リスクについては、PGTの有無による有意差を認めませんでした(妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病、甲状腺機能低下症、前期破水、前置胎盤、帝王切開、早産、低体重児、APGARスコア)。

 

解説:初めてPGTが実施されたのは1990年ですので、32年目になります。PGTによる周産期リスクに関する報告には賛否両論があり確定されていません。2021年に発表された二つのメタアナリシスでは、妊娠高血圧関連疾患(HDP)1.3〜1.5倍に有意に増加すると報告されましたが、この中にランダム化試験は2論文のみです(Fertil Steril 2021; 116: 990、Hum Reprod Update 2021; 27: 989)。一方、2021年のSARTの報告では、PGTの有無でHDP率その他に有意差を認めていません(Am J Obstet Gynecol 2021; 225: 285)。本論文は、このような背景の元に行なわれた研究であり、PGTにより妊娠高血圧リスクが有意に増加することを示しています(PSM前後ともに)。

 

コメントでは、PSMでは全ての重要な変数が含まれていることが肝心であり、本論文の検討項目に全ての重要な変数が含まれているかは不明であるとしています。したがって、PSMはランダム化試験に似ているが異なるものであり、本論文の症例数も少ないことから、ランダム化試験の必要性を力説しています。

 

下記の記事を参照してください。

2021.10.21「PGT胚移植の周産期予後:メタアナリシス

2019.6.23「☆PGD実施後の5歳児の発達調査:その2

2018.11.28「PGD実施後5歳児の発達調査

2018.1.13「PGS正常胚で妊娠したお子さんの9歳までの追跡調査