☆PGD実施後の5歳児の発達調査:その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PGD(着床前診断)実施後の5歳児の発達調査を実施したものです。

 

Fertil Steril 2019; 111: 1151(オランダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.035

Fertil Steril 2019; 111: 1111(イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.02.017

要約:2007〜2013年に体外受精+PGDを実施し出産した103名、PGDなしの体外受精により出産した90名、自然妊娠により出産した58名を対象に、2014〜2018年に5歳児のお子さんの神経精神医学的評価と発達調査を実施しました。身長、体重、BMI、先天異常(奇形)、疾病の罹患率、運動機能発達度は3群間で有意差を認めませんでした(先天異常については、体外受精+PGDで5.8%、PGDなしの体外受精で4.4%、自然妊娠で8.6%)。また、神経学的異常は一人もおりませんでした。唯一の有意差は、おすわりの時期がPGDなしの体外受精で半月早かったことです。

 

解説:本論文は、2018.11.28「PGD実施後5歳児の発達調査」でご紹介した論文のグループからの続報です。これまでに報告された検討から(少数例ですが)、PGDあるいはPGSとお子さんの発達障害の関連は否定的です。本論文は、PGD後の発達調査を実施したものであり、少なくとも5歳まではPGD実施による発達障害は認めていないことを示しています。

 

コメントでは、今年発表されたLancetの論文を紹介しています。

Lancet 2019; 393: 1225(フィンランド)doi: 10.1016/S0140-6736(18)31863-4

要約:フィンランドの国家統計を用いて、1995〜2000年に生まれた赤ちゃんのうち、妊娠治療を実施していない一般集団、妊娠治療による2776名その兄弟姉妹1245名(妊娠治療を実施していないもの)を対象に、妊娠予後を比較検討しました。一般集団と比べ妊娠治療群では出生時体重が60g有意に少なく早産が2.15倍有意に高くなっていました。一般集団と比べ妊娠治療群の兄弟姉妹群ではその差は縮小したものの出生時体重が31g有意に少なく早産が1.56倍有意に高くなっていました。

 

解説:本論文は、一般集団と比べ妊娠治療を実施したことのある方は、妊娠治療の如何にかかわらず赤ちゃんの出生児体重が少なく、早産率が高くなることを示しています。つまり、周産期リスクは不妊症(なかなか妊娠しないこと)であり、妊娠治療によるものではないことを示唆します。同様な結論は、2015.5.26「☆不妊症と赤ちゃんの先天異常の関係」の記事でご紹介しました。そこでは、赤ちゃんの先天異常(奇形)の原因は不妊症(なかなか妊娠しないこと)であり、体外受精•顕微授精によるものではないことを示しています。

 

PGS、PGT-A、PGDについては、下記の記事を参照してください。

2018.11.28「PGD実施後5歳児の発達調査

2018.1.13「PGS正常胚で妊娠したお子さんの9歳までの追跡調査