☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好であることを示しています。

 

Fertil Steril 2022; 118: 484(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2022.05.026

Fertil Steril 2022; 118: 492(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2022.07.003

要約:米国ニュージャージー州の一つの施設で2016〜2020年に採卵を実施し、初回採卵PGTで異常胚のみだった538名を対象に、2回目採卵PGTの結果を後方視的に検討しました。なお、PGT対象胚は、day 5,6,7の3CC以上の胚全てとしました。少なくとも1つの正常胚が300名(56%)で見つかりました。年齢別の2回目採卵成績は下記の通り。

 

           <35歳  35〜37歳  38〜40歳  41〜42歳  42歳<

2周期目正常胚率    81%    82%    59%    43%    25%

初回正常胚移植出産率  70%    57%    72%    63%    58%

 

なお、初回採卵PGTで正常胚が得られた方の正常胚移植出産率は下記の通りで、上記と同じ確率でした。

           <35歳  35〜37歳  38〜40歳  41〜42歳  42歳<

初回正常胚移植出産率  70%    68%    67%    65%    65%

 

解説:米国では1回の採卵費用が100〜150万円になりますので、PGTを実施すると150〜200万円程度になります。したがって、初回採卵で正常胚が見つからない場合には、自己卵による治療を諦める方が少なくありません。本論文は、初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好であることを示しています。つまり、このような方では初回の採卵がたまたま悪かっただけだと考えるべきであり、諦めずに2回目の治療をして欲しいとしています。

 

コメントでは、本論文の病院では数多くの採卵を実施しているメガクリニックであるにもかかわらず、4年間で500名程度の方しかリクルートできていないことから、ごく一部のマイナーな集団を対象にした研究であることを問題点として指摘しています。さらに、本論文の病院のニュージャージー州では、費用の大部分が医療保険でカバーされるため、他の州と比べて格安で治療が受けられるという特殊事情があり、米国全体の母集団でも同じことが言えるかどうかは定かではないとしています。

 

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