本論文は、PGT-Aを実施した胚盤胞では、妊娠判定日のhCGが低くなることを示しています。
Fertil Steril 2020; 114: 801(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.05.015
Fertil Steril 2020; 114: 748(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.027
要約:2016〜2017年に採卵し、PGT-A正常胚の凍結融解胚移植で妊娠した383名396胚移植とPGT-Aなしの凍結融解胚移植で妊娠した335名465胚移植を対象に、BT12の判定日のhCG値について後方視的に検討しました。PGT-A非実施群と比べPGT-A実施群では、既往流産歴が有意に多くありましたが、その他バックグラウンドに有意差はなく、判定日のhCG値はPGT-A実施群で有意に低下(809 vs. 703)していました。また、周産期の合併症や新生児の状態は両群間で有意差を認めませんでした。
解説:現在、PGT-Aは通常の手技として世界中で盛んに実施されています。通常の胚移植に細胞を採取する作業(バイオプシー)が加わったわけですが、この作業がどのような影響をもたらすかについて、生後5年までの調査はありますが(問題なしとの報告)、長期的な予後については不明です。本論文は、PGT-Aを実施した胚盤胞では、妊娠判定日のhCGが低くなることを示しています。単純に考えると、採取する細胞が胎盤になる細胞(TE)であるため、TE細胞数が減少し、TE細胞から分泌されるhCGが低下するものと推察されます。その他、母児の状態については特記すべき問題点はありませんでした。
コメントでは、バイオプシーがどの程度侵襲的なのかについては、長期的な観察研究が必要であり、本論文だけでは結論は出せないとしています。また、PGT-A実施群では結果的に全例でAHA(アシステッドハッチング)を実施していますが、PGT-A非実施群で実施しているかについての記載がないため、その影響についての検討が必要であるとしています。
下記の記事を参照してください。
2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法」
2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い」
2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」
2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」
2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」
2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」
2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験」
2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?」
2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」
2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2」
2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1」
2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非」
2019.7.5「PGT-Aの正確性は?」
2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?」
2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」
2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?」
2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い」
2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?」
2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について」
2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル」
2018.6.3「モザイク胚の特徴は?」
2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」
2018.4.6「☆PGSの真価は?」
2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2」
2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」
2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2」