☆PGT-A：バイオプシー方法による違い

本論文は、PGT-A実施におけるバイオプシー方法による違いを検討したものです。

Fertil Steril 2020; 113: 981（米国）doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.034

要約：2016〜2017年にPGT-Aを実施した方を対象に、バイオプシー方法による培養成績と妊娠成績の違いを後方視的に検討しました。バイオプシー方法は、①day3で透明帯に穴を開け、外側に飛び出してきた胚盤胞のTE細胞をday5以降で採取する方法（2016年10月まで）と、②day3は何もせず、胚盤胞のTE細胞をday5以降で透明帯に小さい穴を2箇所開け引っ張り出す方法（2016年11月以降）で実施しました。後者ではICMを6時にセットし、1時からバイオプシー用のピペットを入れ、透明帯とTE細胞の隙間を空けながら11時方向に進め、バイオプシー後に、1時から11時の透明帯を除去します。採卵数5個未満の周期は除外し、4BB以上の移植のみ実施しました。また、②の方法は5年以上①の方法の経験がある培養士が行いました。結果は下記の通り（有意差のみられた項目を赤字表示）。

　　　　　　　　①day3で穴　　　②day5で穴

周期数　　　　　　　835　　　　　　835

年齢　　　　　　　　38.1歳　　　　38.3歳

融解後生存率　　　　95.1%　　　　99.2%

臨床妊娠率　　　　　55.1%　　　　65.3%

着床率　　　　　　　46.8%　　　　58.4%

出産率　　　　　　　46.2%　　　　58.9%

1絨毛膜性双胎　　　　4　　　　　　　0

解説：PGT-Aの分析方法は年月とともに改善がみられますが（FISH法→CGH法→NGS法）、バイオプシー方法の進歩はほとんどみられません。現在のところ、多くの施設でday3で穴を開けておく①の方法が実施されていますが、透明帯の中で胚は発育するのが本来の姿であるとの考え方に基づき最近②の方法が実施され始めています。本論文は、PGT-A実施におけるこの二つのバイオプシー方法による違いを後方視的に検討したものであり、①より②に有意なメリットがあることを示しています。ただし、様々な交絡因子の検討がされていないこと、後方視的検討であることから、結論は出せません。大規模な前方視的検討が必要です。

かつて、TE細胞は無理やり取ってしまうと胚盤胞にダメージが生じると考えられていました。そのため①の方法が実施されていた訳ですが、②の方法は脱出していない胚盤胞からそのまま細胞を採取するため、バイオプシーのテクニックがないと「無理やり」感が出ます。これまでの考え方を覆す事実ですので、検証が必要です。

下記の記事を参照してください。

2020.6.13「セグメンタルモザイクの頻度」

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別：多施設ランダム化試験」

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故？」

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能　その２」

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能　その１」