☆真の着床障害は本当は少ない！？

本論文は、真の着床障害は本当は少ないのではないかということを示唆するものであり、今月の編集長一押しの論文です。

Fertil Steril 2021; 115: 45（米国）doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.002

Fertil Steril 2021; 115: 70（米国）コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.09.154

要約：2012〜2018年に採卵を行い、PGT-A正常胚をホルモン補充周期で単一胚移植した4,429名（平均年齢35.4歳、18〜45歳）（平均BMI 25.5、18〜40）を対象に、3回連続で移植した場合の着床率、出産率、流産率を後方視的に検討しました。なお、子宮形態異常、ドナー卵子、代理母、PGT-M（遺伝疾患）、子宮内膜<7.0mmの方を除外しました。

移植　　　　　　　1回目　　　　2回目　　　　3回目　　　3回の累積

着床率　　　　　　69.9%　　　　59.8%　　　60.3%　　　　95.2%

出産率　　　　　　64.8%　　　　54.4%　　　54.1%　　　　92.6%

流産率　　　　　　7.2%　　　　　8.8%　　　12.7%　　　　　〜

解説：皆さん妊娠判定陰性だと「着床障害！」とすぐに言い出しますが、着床障害は正常胚で検討しないと意味がありません。本論文は、PGT-A正常胚を3回移植すると95.2%の方の胚が着床し、92.6%の方が出産に至ることを示しています。つまり、真の着床障害は5%未満であり実は極めて少数派であることを示しています。真の着床障害の方は、とてつもなく手に負えないか、あるいは単なる確率論であり数を重ねれば上手くいくのか、今後の検討が必要ですと、本論文の著者は述べています。

コメントでは、ドロップアウト症例が1回目から2回目に571名、2回目から3回目に176名おられ、全体の17%に相当する人数であり、決して無視できないとしています。

私は、本論文を別の角度から見ています。日本でもPGT-A（着床前スクリーニング検査、着床前診断）が徐々に認可され、PGT-Aによる正常胚移植に期待を寄せている方が少なくないのではないかと思いますが、PGT-Aが日常的に実施されている米国の実情を本論文は示しています。PGT-A正常胚の着床率は（平均年齢35歳という好条件でも）60〜70%、出産率は54〜65%に過ぎません。また、流産率は7〜13%あります。つまり、細胞を採取する作業によるダメージが少なからず存在することを示唆します。従って、PGT-Aは魔法の治療ではありません。ダメージのない方法の開発が待たれます。

下記の記事を参照してください。

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか？」

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる」

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法」

2020.7.3「☆PGT-A：バイオプシー方法による違い」

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別：多施設ランダム化試験」

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故？」

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」