本論文は、PGT-Aに関するオピニオンです。
Hum Reprod 2020; 35: 2408(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/deaa224
要約:PGT-Aの有用性を明らかにするため、最近(2012〜2019年)報告されたランダム化試験6論文を検討しました。2論文がPGT-Aの有効性を示していますが、4論文はPGT-Aの有効性を否定しました。前者は初回の胚移植に限定した報告であり、後者は累積胚移植での評価でした。同様にその他の報告でも、PGT-Aは初回胚移植のみで妊娠成績の改善を示していますが、累積胚移植の妊娠成績は改善しません。この理由として、モザイク胚の存在(およびその取り扱い)とバイオプシーによるダメージが考えられます。つまり、モザイク胚として移植が見送られた胚の中に元気な赤ちゃんになれる胚が存在した可能性とバイオプシーをしなければ赤ちゃんになれる胚だった可能性です。PGT-Aが有効である母集団として高齢女性と習慣流産の場合が想定されますが、ランダム化試験はたった2つのみであり、どちらもその有効性が確認できていません。現在のところ明らかなのは、PGT-Aは累積出産率の改善に寄与しませんが、出産までの移植回数が有意に減少するというメリットのみです。PGT-Aの真の有用性を証明するためには、費用対効果も考慮した大規模な前方視的研究が必要です。
解説:PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのでしょうか?本論文のようなオピニオンを読みますと、PGT-Aの意義がぼやけてきます。結局のところ、PGT-Aは初回胚移植でのみ有効性が確認できていますが、それ以降はPGT-A実施の有無で妊娠成績は変わりません。おそらく、若くても異常胚率が高い方や着床促進(何でも着床してしまい化学流産を繰り返す)の方に有効な手段だと思います。この辺りが現在のPGT-Aの限界かも知れません。
下記の記事を参照してください。
2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる」
2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法」
2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い」
2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」
2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」
2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」
2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」
2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験」
2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?」
2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」
2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2」
2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1」
2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非」
2019.7.5「PGT-Aの正確性は?」
2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?」
2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」
2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?」
2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い」
2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?」
2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について」
2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル」
2018.6.3「モザイク胚の特徴は?」
2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」
2018.4.6「☆PGSの真価は?」
2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2」
2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」
2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2」