PGT-Aの母子への影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PGT-Aの母子への影響についての検討です。

 

Hum Reprod 2021; 36: 340(米国)doi: 10.1093/humrep/deaa316

要約:2013〜2019年に採卵し妊娠した756組の夫婦を対象に、PGT-A実施群241名とPGT-A非実施群515名の妊娠予後を後方視的に検討しました。有意差のみられた項目は下記の通り。

 

PGT-A     実施群   非実施群   オッズ比   P値

HDP      12.4% >  9.3%    1.943   0.029

軽症HDP    86.7% <   89.6%    1.896   0.045

帝王切開    43.5% <  50.8%    0.626   0.013

HDP(Hypertensive Disrders of Pregnancy)=妊娠高血圧

 

HDPに寄与する因子  オッズ比   P値

PGT-A        1.943    0.029

BMI         1.099    <0.001

ホルモン補充周期   2.740    0.001

 

なお、両群間の妊娠週数、出生児体重、胎児発育、NICU入室、胎児奇形に有意差を認めませんでした。

 

解説:PGT-A実施による母体および胎児への悪影響に関する検討は、少数例の報告や不適切な対照群しかなく結論が得られていませんでした。本論文は、PGT-Aの母子への影響についての後方視的検討を実施したものであり、HDP(妊娠高血圧)の有意な増加を認めています(ただし軽症がほとんど)。また、単一施設の後方視的検討であるため、多施設による前方視的検討が望まれます。

 

下記の記事を参照してください。

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

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2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

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2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

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