PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるかについての前方視的検討です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 627(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.052

Fertil Steril 2021; 115: 585(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.029

要約:2014〜2018年18〜44際初回採卵を実施する方402名を対象に、484回の単一胚盤胞移植を実施しました。バイオプシーのみを行って胚凍結し、移植の結果が判明した時点でPGT-Aを実施しました。PGT-A結果は妊娠された場合は妊娠13週で教えることとしました。後日判明したPGT-A結果と妊娠成績は下記の通り。

 

PGT-A       正常    異常

妊娠判定陽性率   82.1%   40.2%

臨床妊娠率     73.1%   23.5%

出産/妊娠継続率  64.7%    0%

 

また、同時期のPGT-A非実施群(胚移植1208回)を対照群として、今回のPGT-A実施群(胚移植484回)と比較したところ、妊娠継続率に有意差を認めませんでした(45.8% vs. 47.9%)。

 

解説:20〜40歳の女性では、PGT-Aの実施による妊娠成績の改善は認められないとの報告があります(Fertil Steril 2019; 112: 1071)。また、PGT-Aの実施により、約半数の胚が出産に至らないことが統計的に明らかにされています。これは、PGT-Aの実施による胚のダメージの関与であると考えられています。本論文は、PGTのバイオプシーだけ実施し、染色体分析を実施せずに、妊娠判定後に染色体分析を実施した興味深いスタディです。つまり、移植時の胚選択は通常通りの形態学的判断で実施しています。出産/妊娠継続率は異常胚では0%、正常胚では64.7%であることが判明し(PGT-Aのメリットの確認)、同時期のPGT-A非実施胚と今回のPGT-A実施群の出産/妊娠継続率には有意差を認めていません(バイオプシーのデメリットがないことの確認)。つまり、採卵した全ての受精卵は、PGT-A検査をしてもしなくても結局出産できる胚は決まっていることを示唆しています。

 

コメントでは、本論文の成果を称賛しつつ、バイオプシーによるマイナス効果については本論文だけでは不十分であり、今後の研究が必要であるとしています。

 

私は、あまりにもキレイすぎる結果に、作為的なものを感じてしまいますが、それは心の内に留めておき、今後の研究に期待したいと思います。