niPGTの診断精度は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、niPGTの診断精度に関する研究を異常胚とモザイク胚を用いて実施したものです。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 88(中国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.09.004

要約:12組の夫婦から、TE細胞のNGS法により診断された異常胚23個モザイク胚3個を提供して頂き、TE細胞のNGS法をもう一度実施しました。また、同時にICM細胞と培養液中の染色体も同様に分析し、ICM細胞との一致率を確認しました。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

                NGS法分析の一致率

初回TE細胞診断  初回TE vs.ICM  2回目TE vs.ICM  培養液 vs.ICM

異常胚*      78.3%(18/23) 87.0%(20/23) 78.3%(18/23)

モザイク胚     0%(0/3)   100%(3/3)   100%(3/3)

*細かな部分に多少の違いはありますが、異常胚は全て異常胚と判定されています。

 

解説:最近、niPGTがクローズアップされています。PGTのそもそもの問題点は、胎児になる細胞(ICM)を知りたいにも関わらず、胎盤になる細胞(TE)や培養液中のDNAで予測せざるを得ないことです。これは同じものではありませんので、当然間違い(エラー)が生じます。そのエラーの頻度と侵襲性を天秤にかけてどちらが良いか判断する訳です。2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派」でご紹介したように、niPGT賛成派は、胎盤になる細胞(TE)より培養液のDNAの方が胎児の予測に優れていること、非侵襲検査であることからniPGT-Aを推奨し、niPGT反対派は、異常な細胞がICM→TE→培養液へ順次排除される仕組みがあると想定されること、現在のniPGT-Aが発展途上であることからTE細胞のPGTを推奨しています。本論文は、廃棄胚を用いて、初回TE細胞、2回目TE細胞、培養液中niPGTとICM細胞の染色体の一致率を調べたものです。異常胚においては、TE細胞および培養液中niPGTとICM細胞の染色体の一致率は同等であること、モザイク胚ではむしろ培養液中niPGTに軍配があがることを示しています。つまり、TE細胞のモザイク問題は、むしろniPGT-Aで解決されることになります。検査した個数が少ないので、もっと多くの胚での検討が必要であることは言うまでもありません。

 

下記の記事を参照してください。

2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2