☆PGTの臨床成績:日本の多施設共同研究 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、日本の多施設共同研究によりPGTの臨床成績を検討したものです。

 

Reprod Med Biol 2023; 22: e12518(日本)DOI: 10.1002/rmb2.12518

要約:日本の200施設において、2回以上の反復着床不全(RIF)、2回以上の流産(RPL)、あるいは染色体構造異常のある28~50歳の女性10,602採卵周期、合計42,529個の胚盤胞のPGTを実施しました(NGS法による)。正常胚25.5%、モザイク胚11.7%、異常胚61.7%が確認でき、採卵周期の38.3%で少なくとも1つの正常胚が得られました。1つ以上の胚盤胞が正常胚あるいはモザイク胚と診断された6,080周期で融解単一胚移植を実施しました。胚移植あたりの臨床妊娠率は68.8%、継続妊娠率は56.3%、流産率は10.4%でした。なお、臨床妊娠率と流産率は、母体年齢にかかわらず一定でした。

 

解説:受精卵の染色体異常は、着床不全や流産の主な原因となります。ほとんどの異数性染色体異常は母体の減数分裂で発生し、高齢の女性に多く見られます。2020年の日本産科婦人科学会ART登録によると、胚移植あたりの妊娠率は15.8% 、生児出生率(生産率)は9.9%です。また、40歳以上の女性の流産率は33.3%でした。近年、PGT-Aが彗星の如く登場しましたが、異数性染色体異常を除外した胚移植により妊娠成績が向上するか否かについての結論は出ていません。日本産科婦人科学会が実施したパイロット試験(Hum Reprod 2019; 34: 2340)では、PGT-AがRIFおよびRPL患者の胚移植当たりの生産率を改善したものの、患者あたりの生産率は改善しなかったことが示されました。しかし、このパイロット試験の症例数が少なすぎるため、有意差が得られなかった可能性があります。このような背景の元に本論文の全国規模の臨床研究が実施され、PGTは胚移植あたりの妊娠率を改善し、妊娠あたりの流産率を低下させる可能性があることを示しています。しかし、採卵周期の60%以上では正常胚を得ることができず、PGTが採卵周期あたりの臨床成績を改善できるかどうかは不明のままです。

 

PGTについては下記の記事を参照してください。

2023.10.5「☆4PN由来正常胚移植で健常児出産

2023.9.28「☆年齢によるモザイク現象の頻度の違い

2023.9.23「卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率

2023.9.9「☆PGT-Aによる単胎妊娠の周産期予後

2023.8.10「☆母体年齢は正常胚移植の妊娠成績に影響するか:メタアナリシス

2023.8.7「胚盤胞の液胞の有無と正常胚率の関係

2023.5.25「☆モザイク胚のカットオフ値は、20~80%より30~70%が良い

2023.3.27「☆低頻度モザイク胚移植で胎児異常

2023.1.25「カオティック(chaotic)異常胚で健常児出産!?

2022.12.25「☆☆PGTは有効か否か

2022.11.27「不育症患者における染色体異常の有無による妊娠成績:メタアナリシス

2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?

2022.10.18「☆PGTは37歳以下では累積出産率は改善しない

2022.9.25「☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好!

2022.7.3「☆異常胚やモザイク胚移植で8名誕生

2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?

2022.3.29「PGTによる周産期リスクは?

2022.2.5「☆新しい発想の着床前診断法:マウスでの検討

2021.11.18「☆モザイク胚の取り扱いについて

2021.5.12「niPGTの診断精度は?

2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2