☆4PN由来正常胚移植で健常児出産 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、4PN由来正常胚移植による健常児の出産報告です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 1700(イタリア)doi: 10.1093/humrep/dead151

要約:男性は無精子症、女性には特記すべき異常のない夫婦は、他院でTESE-ICSIによる胚移植9回、ドナー精子による人工授精を6回行い妊娠に至りませんでした。なお、夫婦ともに36歳、ご夫婦の染色体検査は正常でした。ドナー卵子とドナー精子による治療が提案され、採卵数11個の顕微授精により2PN胚1個、3PN胚4個、4PN胚1個が獲得できました。3日目に2PN胚8細胞を移植しましたが妊娠せず、3PN胚3個と4PN胚1個が5日目胚盤胞に発育しました。タイムラプス画像を確認したところ、余分な前核(PN)が女性由来である可能性と女性由来PNの直径が男性由来のPNに比べて著しく小さいことから、女性のPNが分離している可能性があると考え、4個の胚のPGTを実施しました。NGS+SNP法でPGTを実施したところ、3PN胚は22モノソミー、三倍体、四倍体であり、4PNは正常胚であることが判明しました。4PN由来正常胚移植により妊娠が成立し、妊娠40週で健康な男児を出産しました。なお、このご夫婦がお子さんの染色体検査を行わない方針だったため、お子さんの染色体検査は実施していません。また、同じドナーによる共通の傾向があるか否かを調査したところ、他の患者では全て正常受精であることが確認できました。

 

解説:0PN胚と1PN胚は異常受精ではないので発育すれば大丈夫、3PN以上の胚は異常胚なので確認でき次第培養中止というのがこれまでの常識でした。しかし、PGTが行われると、その常識が覆り、3PN以上の胚にも正常胚があることが明らかになりました。もちろん、体外受精でも顕微授精でも、0PN胚と1PN胚にも2PN胚と同様に正常胚があることが判明しています。したがって、PGTを実施するならば、採卵翌日の受精判定での0PN、1PN、2PN、3PN判定は全く無意味なものになってしまします。本論文は、PGTにより正常胚であることが判明した4PN胚により、健康なお子さんが誕生したことを初めて示した症例報告です。

 

正常胚の3PN胚は異常胚の3PN胚よりも2PN胚に近い発育速度を示すことがタイムラプス培養により報告されています。今回出産した4PN胚は異常胚よりも早く8細胞に達し、早く胚盤胞に到達しました(三倍体3PN胚より7.2時間早い)。これまでの報告によると、顕微授精の3PN胚のおよそ半分は二倍体、体外受精の3PN胚の場合は半分以下が二倍体です。また、1PN胚は、顕微授精と比べ体外受精では二倍体である可能性がより高くなります。0PN胚では、二倍体である可能性がさらに高く、顕微授精の0PN胚の75.5%は二倍体であることが報告されています。2PNでない胚のPGT-Aは廃棄されるかもしれない胚の救出策として極めて重要です。

 

下記の記事を参照してください。

2021.9.9「☆1PN胚の取り扱い

2021.7.17「正常胚移植で、全胞状奇胎!?

2020.6.19「Q&A2600 顕微授精で胞状奇胎でした

2019.10.9「胞状奇胎は想像以上に多い?

2019.2.8「Q&A2101 胞状奇胎後の妊娠治療は?

2018.12.25「☆0PNや1PN由来の胚も移植可能

2017.12.9「☆0PN胚、1PN胚の取り扱いについて

2017.9.3「Q&A1569 出産後生理が来ません(海外在住)

2017.2.16「Q&A1368 胞状奇胎術後、生理の量が減りました

2016.1.10「Q&A965 ホルモン補充周期で排卵確認?

2015.3.15「Q&A632 39歳、第2子希望、胞状奇胎後