正常胚移植で、全胞状奇胎!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、正常胚移植で全胞状奇胎が生じた初めての症例報告です。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 146(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2021.01.003

Fertil Steril Rep 2021; 2: 138(カナダ)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2021.02.007

Fertil Steril Rep 2021; 2: 137(米国)エディター DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2021.05.005

要約:42歳、流産歴3回、男性不妊の女性に対して、刺激周期にて採卵+顕微授精+PGTを実施しました。採卵数10個、胚盤胞が6個でき、NGS法によるPGTの結果、正常胚は1個(46,XX、1PN胚)でした。ホルモン補充周期にて移植したところ、BT14のHCG 367 IU/mL、BT16のHCG 840、6w3dのHCG 24,714で胎嚢と胞状奇胎様のエコー像を呈し、7w2dのエコー像も変化を認めませんでした。ミソプロストールによる子宮内容排出を促し、自宅で排出した子宮内容物を病理検査とNGS法+STR法による染色体検査を行いました。その結果、全胞状奇胎と46,XX(全て父親由来の染色体)を診断しました。

 

解説:産婦人科研修の必修知識の「胞状奇胎」の項をご覧ください。1990年代までは胞状奇胎はしばしば認められましたが、現在は稀な疾患です(減少の理由は明らかではありません。胞状奇胎を繰り返すことはほとんどないので、偶然生じるものと考えられています)。雄核発生が原因とされており、男性の染色体が2セット入った場合に生じることが知られています(分かりやすいのは、体外受精で精子が2個入った3PN胚)。顕微授精では1個の精子を入れていますので、下記の可能性が考えられます。

全胞状奇胎:染色体は46,XXだが、Xは精子由来の雄核発生(雌性前核の不活化か欠如+精子1個が2倍体化)

部分胞状奇胎:染色体は69,XXYか69,XXX(1倍体卵+精子1個が2倍体化、2倍体卵+精子1個)

 

本症例は、胚盤胞のPGTの際にNGS法で46,XXと診断しましたが、結果的に全胞状奇胎でしたので、男性染色体2セットの片親性ダイソミー(UPD)であった訳です。両親のどちら由来の染色体であるかは、SNP法あるいはSTR法を用いなければ判断がつきません。PGTの落とし穴であると言えます。

 

コメントでは、1PN胚は体外受精でも顕微授精でも5〜7%存在し、マウスでも6.6%と同程度存在することを指摘しており、厳重に妊娠経過の観察をして欲しいとしています。エディターのコメントでは、NGS法によるPGTが46,XXの場合にはSNP法かSTR法を実施して欲しいとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2020.6.19「Q&A2600 顕微授精で胞状奇胎でした

2019.10.9「胞状奇胎は想像以上に多い?

2019.2.8「Q&A2101 胞状奇胎後の妊娠治療は?

2018.12.25「☆0PNや1PN由来の胚も移植可能

2017.12.9「☆0PN胚、1PN胚の取り扱いについて

2017.9.3「Q&A1569 出産後生理が来ません(海外在住)

2017.2.16「Q&A1368 胞状奇胎術後、生理の量が減りました

2016.1.10「Q&A965 ホルモン補充周期で排卵確認?

2015.3.15「Q&A632 39歳、第2子希望、胞状奇胎後