☆PGTは37歳以下では累積出産率は改善しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PGTは37歳以下では累積出産率の改善にならないことを示しています。

 

F&S Rep 2022; 3: 184(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2022.05.004

F&S Rep 2022; 3: 178(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2022.07.004

要約:2014〜2015年に米国で自己卵による初回採卵を行なった37歳以下の方31,900名を対象に、PGT実施の有無による妊娠成績を後方視的に検討しました(SART-CORSデータベース)。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

35歳未満    PGT実施   PGT非実施  オッズ比(信頼区間)

症例数      1,341名   22,434名    〜

累積出産率    70.6% <  71.1%    0.82(0.72〜0.93)

多胎妊娠率      8.7%    23.2%    0.83(0.64〜1.10)

流産率        7.0%     7.0%    1.08(0.86〜1.35)

TTP*      4.53ヶ月 > 2.38ヶ月

*TTP=Time To Pregnancy(妊娠までに要した期間)

 

35〜37歳    PGT実施   PGT非実施  オッズ比(信頼区間)

症例数      1,197名    6,928名    〜

累積出産率    66.6%    62.5%    1.14(0.99〜1.31)

多胎妊娠率    10.5%  < 22.8%    1,67(1.23〜2.26)

流産率        7.9%  <  9.5%    0.77(0.61〜0.98)

TTP*      4.63ヶ月 > 2.35ヶ月

 

全症例     PGT実施   PGT非実施  オッズ比(信頼区間)

症例数      2,538名   29,362名    〜

累積出産率    68.7%    69.0%    0.92(0.83〜1.01)

多胎妊娠率      9.5%    23.1%    1,11(0.91〜1.36)

流産率        7.4%     7.6%    0.97(0.82〜1.14)

出生児体重#   3340g >  3258g    P<0.001

#単胎妊娠に限る

 

解説:PGTが登場し、圧倒的な妊娠成績の改善が期待されました。しかし、細胞採取(biopsy)による胚のダメージは想像以上に大きなものであり、若い世代でのPGTのメリットが薄れています。本論文は、全米データを基にした若い世代での過去最大規模の検討であり、35〜37歳ではPGTは累積出産率の改善にならず35歳未満では累積出産率はPGTにより却って低下することを示しています。

 

コメントでは、これまでのメタアナリシスにおいて35〜37歳での累積出産率はPGTの有無で有意な改善が認められないことを紹介しています。本論文では、35歳未満では累積出産率はPGTにより却って低下するのは、細胞採取(biopsy)によるダメージに他ならないとし、37歳未満でのPGTはもうやめるべき時期に来ているとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2022.9.25「☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好!

2022.7.3「☆異常胚やモザイク胚移植で8名誕生

2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?

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2022.2.5「☆新しい発想の着床前診断法:マウスでの検討

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2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

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2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2