☆モザイク胚移植の予後調査 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、モザイク胚移植の予後に関する系統的な大規模解析を実施したものです。

 

Fertil Steril 2023; 120: 957(米国、イタリア、カナダ、台湾、ロシア、トルコ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.07.022

Fertil Steril 2023; 120: 983(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.09.011

要約:2017〜2023年に世界9ヶ所の不妊クリニックでPGT実施後のモザイク胚移植(モザイク率20~80%)を行い妊娠が成立した914名を対象に妊娠予後を調査しました。妊娠成績は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

        正常胚      全てのモザイク胚    部分モザイク胚を除く

着床率 59.1%(8672/14673)  45.0%(914/2031)   39.0%(395/1013)

流産率  8.9%(771/8672) < 22.2%(203/914) =  27.6%(109/395)

 

なお、お子さんの出生体重と在胎期間は3群間で有意差を認めませんでした。モザイク胚移植で出産した488名のうち、1人(0.2%)に重篤な異常(心血管奇形)が認められました。モザイク胚移植で妊娠中に行った出生前診断(絨毛検査、NIPT、羊水検査)を実施した250名(365検査)のうち、236名(347検査)は正常核型を示しました。出生前診断で異常が認められた14名(5.6%)であり、9名が出産、流産2件、中絶3件に至りました。PGT検査結果と出生前診断結果が一致したのは3件(1.2%)でした。

 

解説:胚モザイク現象は、一つの胚に異なる染色体数を持つ細胞が共存することです。一般的に、モザイク胚は着床率が低く流産率が高いものの、出産に至れば健康な赤ちゃんが誕生するとされています。しかし、モザイク胚移植の予後に関する系統的な大規模解析は行われていません。本論文は、このような背景の元に行われ、モザイク胚は正常胚よりも流産率が高いが、モザイク胚から生まれたお子さんは正常胚の場合と同等であることを示しています。 また、多くの場合モザイク現象は妊娠中に解消されますが、一部でモザイク現象が妊娠中も持続することを示しています。

 

コメントでは、完璧な研究は存在しないとしながらも、本論文を非常に洗練された素晴らしい研究であると賞賛しています。

 

PGTについては下記の記事を参照してください。

2023.10.18「☆PGTの臨床成績:日本の多施設共同研究

2023.10.5「☆4PN由来正常胚移植で健常児出産

2023.9.28「☆年齢によるモザイク現象の頻度の違い

2023.9.23「卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率

2023.9.9「☆PGT-Aによる単胎妊娠の周産期予後

2023.8.10「☆母体年齢は正常胚移植の妊娠成績に影響するか:メタアナリシス

2023.8.7「胚盤胞の液胞の有無と正常胚率の関係

2023.5.25「☆モザイク胚のカットオフ値は、20~80%より30~70%が良い

2023.3.27「☆低頻度モザイク胚移植で胎児異常

2023.1.25「カオティック(chaotic)異常胚で健常児出産!?

2022.12.25「☆☆PGTは有効か否か

2022.11.27「不育症患者における染色体異常の有無による妊娠成績:メタアナリシス

2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?

2022.10.18「☆PGTは37歳以下では累積出産率は改善しない

2022.9.25「☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好!

2022.7.3「☆異常胚やモザイク胚移植で8名誕生

2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?

2022.3.29「PGTによる周産期リスクは?

2022.2.5「☆新しい発想の着床前診断法:マウスでの検討

2021.11.18「☆モザイク胚の取り扱いについて

2021.5.12「niPGTの診断精度は?

2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2