振り向くと、電話ボックスはテルとヒロシに挟まれていた。




二人とも俺を見て不適な笑みを浮かべている。




そしてテルがもう一度ノックをして、ドアを開けようとした。




「あ…」




「どうしたのつんつん?」




「ん、あ、なんでもない。すぐまた掛け直してもいい?」




「うん」




電話を切った俺は、不機嫌にドアを開けた。





「達也ぁ…一人抜けがけはよくないぜぇ?」テルが言った。




「なんだよコラ」




「コラじゃねーよコラ。どうせあの絵美とかいう子に電話してたんだろ」




「わりーかよコラ」




「わりーかよじゃねーぞコラ。菜穂ちゃんにも連絡取らせろ」




菜穂はテルとヒロシが惚れている子だ。




坂東高校が泊まる浅草に乗り込んだ俺達の前に現れたのは、マサシではなく、そのライバルとみられるリョウキだった。




そのリョウキに返り討ちにされたテルとヒロシは、菜穂から看病され、一方的に惚れていた。




「勝手にしろよ」




俺がそう言うと、テルはため息をついた。




「そうしてーんだけどさ、連絡先が分からん」




「あっそ」




「あっそ、じゃねーぞコラ!ん?ん?達也。お前が絵美ちゃんに電話して俺達が菜穂さんに会えるように段取りしろよ。あ、俺達、じゃなくて俺だけでいいんだけどさ」




するとヒロシがテルの脇を小突いた。




「お前はいいんだよカバ。俺が会えたらそれでオッケーだべ」




「なんだと赤猿コラ」




テルとヒロシの小競り合いが始まりそうだったので俺は間を通って逃げようとした。




「待てエロガッパ」テルが言った。




「絵美ちゃんに電話しろ。そして、菜穂さんに会えるようにしろ」




「知らねーよ。探せよ。奈良中」




するとテルとヒロシが殺気立った目で俺を見た。




今まで見たことのないほどの殺気だった。




二人とも必死だった。




「わーったよ。でもなお前等、俺の邪魔はすんなよ?」




「ハイ達也さん!」ヒロシが言った。




俺は渋々受話器をとって絵美に電話をかけた。




ところが、絵美は電話に出なかった。



~つづく~


井口達也


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