絵美に電話をした俺は、開口一番「俺だけど」と言った。
電話口から聞こえる絵美の声はいつものように嬉しそうだった。
「えみえみ、待ち合わせするならどこがいい?」
「何いきなり?つんつん東京やん。そういう冗談、寂しくなるから嫌いやわぁ」
俺はどのタイミングで奈良に来ている事を言おうか考えていた。
目一杯驚かせて、目一杯喜ばせようと思った。
「いいから」
「ほんま?東京から来てくれるん?」
「走っていくよ」
格好つけたい俺は、デタラメな会話を続けた。
「つんつん、怒るでー」
「だからさ、行くって。ほんとに。ほんとに行ったらさ、あの続きしてくれる?」
「あの続き?」
「ほら、ネズミーランドの続き」
「チュゥ?」
「まぁ…そんな感じ」
「ええよ。ご褒美にチュゥしたげる」即答だった。
即答過ぎて肩透かしをくらった。
「でも…」
「でも?」
「冗談やったらほんま…嫌いになる」
「却下」
「何、却下て」
「嫌いになるのは、却下」
「それはこっちが決める話やん」
「嫌いにはなるな」
「はぁ。来ない気やん」
「とりあえず場所決めてよ」
「言ったって分からへんやろぉ?」
「分かる」
「じゃあ、奈良駅の改札で」
「分からない」
「…つんつん」
「ん?」
「切っていい?」
「それは、却下」
俺がそう言うと絵美は笑った。
「会いたいわぁ。つんつんが変な事言うから」
「そういえばさ、絵美の家ってどの辺にあんの?」
「どうせまた分からないって言うやん」
「いいから」
「坂東公園の近く」
「へぇ。それって高校からも近いわけ?」
「近いよぉ」
「分かった」
「いつ来てくれるん?」
「近々行くよ。話かわるんだけどさ、絵美って今日は何してんの?」
「まさか今日来てくれる!?…わけないか」
「さすがに今日はね」
「今ごろごろしてる~。暇やねん。家の人、法事で明日まで帰ってこないんよ」
両親がいない…俺の頭の中にその言葉が響いた。
俺は小さくガッツポーズをした。
「えみえみ、今夜電話していい?」
「今夜?んー…」
絵美は少し考えているようだった。
「都合悪い?」
「今日は両親いないから、友達の家に泊まりに行こうと思ってるんよ」
俺はその友達に軽い殺意を覚えた。
「誰と遊ぶの?」
俺がそう聞くと、絵美はまた答えに詰まってしまった。
~つづく~
井口達也
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