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チキン番外編34



「こいよ」




俺がそう言うと、リョウキはゆっくりと俺に近付いてきた。




「ガキが…」




そして俺が立っている場所まであと数歩という所で立ち止まった。




リョウキは「一服させろや」と言ってタバコに火をつけた。




どうやらヒロシのように奇襲をかけてくる男ではないので、俺もタバコに火をつけた。




体中が痛くてどうしようもなく、足に力が入らない状態だったが、目の前にやりあえる相手がいると自然とその痛みも少し和らいだ。




「お前なかなか根性あるやん。バカやけどな」




俺は無言で深く吸い込んだ。




その後は無言の時間が続いた。




一、二分ほどだったと思う。




俺がタバコを地面に落とし、足で踏み消すと、リョウキもタバコを捨てた。




それを喧嘩の合図にしたかのように、リョウキは俺に向かって一歩踏み出した。




俺も反射的に体が前に動き、二歩目にはもう拳が肩の位置まで上がっていた。




静かな始まりだった。




俺の拳がリョウキの頬に当たったかと思うと、すぐにリョウキの拳が俺のこめかみに当たった。




始まりも静かだったが、喧嘩の最中も言葉は無く、静かだった。




ただ骨と骨がぶつかり合う音だけが鳴り続けた。




塀に蹴飛ばされて、背中をしこたま痛打したが、更に蹴ろうとするリョウキの片足を払い、腹を蹴り上げた。




しかしすぐに足をつかまれ、倒された。




もみ合いになりながらも体を引き離し、立ち上がるとまたお互いに避けもせずに殴り合ったのだった。




こういう喧嘩は久しぶりだった。




痛いを通り越して、むしろ気持ちいいくらいだった。




逃げない相手とやるのは血がたぎる。




なんとも言えない刺激がある。




人には理解されないが、テルや、そしてこのリョウキのような相手との喧嘩は俺にとっては最高の遊びだった。




その分、代償は大きかった。




痛さが飛んで、体だけが勝手に動いているような状態で殴り続けるものだから、怪我の上に怪我を重ねていくことになる。




おかげでまぶたは腫れ、口の中は出血のせいで鉄の味がする。




フラフラになりながらも相手の髪を掴み合って、一発、一発と拳をくれあっていると、俺は空振りをした。




おかしいなと思ったら、俺は膝か勝手に落ち、地面に崩れ落ちていた。




負けた、と思ってリョウキを見ると、リョウキも前のめりに倒れていた。




俺はリョウキの髪を掴んでいたので、リョウキが倒れた勢いで、俺もひざをついてしまったようだった。




リョウキはまだ立とうとしている。




俺も立とうとするが、力が入らない。




もはやどっちが勝ったも負けたもなかった。




焦点も微妙に合わない。




まぶたの腫れのせいか、視界も悪かった。




俺は、「やめた」と言って、そのまま地面に大の字になった。




もう、悪口の一つも言えないほど疲れきっていた。




リョウキも、力のない声で「ガキが…」と言って、起こしかけた体を倒し、横になった。



~つづく~



井口達也


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