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チキン番外編①
帰れと言ったら、ヒロシは俺を怪しむ目で覗き込んだ。
「達也ぁ、お前、絶対これから女と会う感じだろ?」
「んな事ねーよ。寝るんだよ」
「なーにが足の骨が折れてるだよ。さっきまで俺を殴ろうとしてたくせに」
「いてーいてー。ヒロシを助けにいったせいで大怪我したわ」
「くっ…」
ヒロシが言葉に詰まった時、また電話が鳴った。
ヒロシは電話に向かって一直線に走った。
きっとまた女からの電話だと思って、俺の邪魔をしようとしたのだろう。
あまりの動きの素早さに、ヒロシに先を越されてしまった。
そしてヒロシは容赦なく電話に出た。
「もしもし?君、えみえみって子?達也ね、足なんて折れてねーよ。そんなことより俺とこれから遊ばない?」
俺はヒロシの頭をひっぱたいて電話を奪い取った。
「もしもしえみえみ?ごめんな。バカがいてさ」
すると、電話から聞こえてきたのは図太く低い、カバ男の声だった。
「はぁ?さっきから何だおめーら。えみえみだぁ?女と遊ぼうとしてんのかよ」
テルだった。
俺はまた無条件に電話を切ろうとした。
「じゃあな。カバ。いや、バカ」
「待て待て待てーい!コラ!さっきもいきなり切りやがってよぉ!心配して電話かけてんだろうがよ」
人がやられたのを喜んでおいてそれはない。
俺はテルに言ってやった。
「用件はそんだけか。じゃあな」
「待て待て待てーい!おい達也、女と遊ぶなら俺もまぜろよ」
「うっせーな。切るぞ」
「あのな、おめーら、俺がどこにいるか知ってんの?」
「知らねーよ。じゃあな」
「待て待て待てーい!今お前の団地の近くだからさ、今から行くよ」
「なんでいるんだよ。帰れよ」
「心配だから来たんだよ」
テルは俺がやられると喜ぶが、反面、本当に心配しているようだった。
実は、少しだけいい奴だった。
こうなるといくら止めても来るので俺も諦めた。
無言で電話を切って、数分と経たない内にテルがやってきた。
テルは俺の顔を見て大笑いしたが、すぐに神妙な顔になった。
「狛江、ナメられてんじゃねーよバカ」
「うっせーよカバ」
「よえーんだよ達也」
「おめーよりつえーよカバ」
「は?やんのかコラ」
「上等だよカバ」
「俺の方が勝ち越してんだろうがよ達也」
「嘘つくんじゃねーよ。俺の方が3回勝ち越してんだろうがよ」
「俺の8勝5敗19引き分けだろうがよ」
「お前は5勝だろ」
一触即発の雰囲気の中で、ヒロシが話し始めた。
ヒロシはネズミーランドでのことを細かくテルに説明したのだった。
森木が妹の為に買ったマグカップが割れた話をしたら、テルは顔をしかめ、あごをしゃくれさせながら泣き始めた。
俺はテルに言った。
「何その不細工な顔」
「う、うっせぇ、うっせぇ、うっせぇやい。くぅ…」
テルは極端な男だ。
周りから見たらコワモテの風貌だが、誰よりも涙もろく、情に厚い。
鼻水まで垂らしているテルは、落ちている俺の服を拾って鼻をかんだ。
「コラ、何すんだカバ!」
テルは一呼吸おいて話し始めた。
「達也よぉ、そいつら今どこいんの?」
「さぁな。地元に帰ったんじゃん?」
するとヒロシが割り込んできた。
「浅草らしいよ」
それを聞いて、テルの目が光った。
「ヒロシ、ナイス」
テルの言葉に親指を立ててこたえるヒロシ。
そしてテルは立ち上がって言葉を続けた。
「オラ、おめーら、行くぞ」
~つづく~
井口達也
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