屋上に持ち込んだベンチに横になりながら、俺は風に流されていく煙草の煙をぼんやとり眺めていた。




昼食が済むと、午後は決まって屋上で昼寝の時間だ。




うとうとしている俺の顔の上に、一枚の紙を差し出した男がいた。




森木だった。




「なんだこりゃ?」




「まぁ、見てみろよ」




それは、クラスで配布された『思い出旅行』のプリントだった。




俺たちの学校では、三年になると思い出旅行という行事があった。




まさしくその名の通り、中学時代の皆との思い出を作ろうという趣旨のものだ。




「ネズミーランドねぇ…。めんどくさ。」




楽しい事には飛びつく俺だったが、子供の遊園地、位のイメージがあったから、全く気が乗らなかった。




それに、朝早く学校に集まって、学年全員で大型バスで移動する事になる。




朝は苦手だ。




森木は、少し残念そうに「行かねーの?」と言った。




「お前ら行ってくりゃいいじゃん」




「…だよな。」




「森木随分行きたそうじゃん。行けば?」




森木は煙草に火をつけた。そして、地べたの上に大の字になって寝ていたワン公と、あぐらをかきながらプレイボーイを見ていたルパンに向かって言った。




「ワン公、ルパン、お前らは?」




ワン公は寝ながら腕だけを挙げて、手を横に振った。




行かない、という事だった。




「ルパンどうすんの?」




森木が続けた。




するとルパンは、読んでいたプレイボーイをすっと下げて、「俺は行くよ」と答えた。




意外な返事だったので、今度は俺がルパンに聞いた。




「ガキの遊園地に行ったってつまんねーんじゃねーの?」




「達也は何にも知らねーなぁ」




ルパンが意味深に答えた。




「は?」




「ネズミーランドは夢の国って言われてんだぜ?全国から修学旅行の生徒も来るし、いつも女の子で大混雑してるんだってよ。」




「ルパン、それ、マジか?」




「ってヒロシが言ってたよ。ネズミーランドは夢の国っていうか、男にしたらウハウハドリームランドだって。」




「あいつのいう事は信じられねーな」




と言いつつ、俺は早くも鼻の下が伸び始めていた。




ワン公もいつの間にか身体を起こして聞いていた。




神聖な夢の国、ネズミーランドに対して、あまりにも不純な動機を持ち始めた俺。




気持ちは行く方向へと大きく傾き始めた。




すると、屋上のドアが開いた。




ヒロシだった。



~つづく~



井口達也




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