恐怖!ネズミーランドの巻①



恐怖!ネズミーランドの巻②



ネズミーランドへの思い出旅行当日を迎えたが、ナンパ目的とは言っても、朝は苦手。




結局集合時間ギリギリになってしまい、出発しかけていたバスに駆け乗る事になった。




バスの一番奥の真ん中に座っているヒロシと目が合うと、溜め息をついたように見えた。




来ないようにと願っていたのだろう。




俺は通路に補助席を倒して、ヒロシの前に座った。




少ししてほのかに香る匂いに気が付いた。




俺が後ろを振り向いて、「なんか、臭くね?」と言うと、ヒロシの隣に座っていた森木が、ヒロシを指差した。




どうやらヒロシが香水をつけてきたらしい。




ヒロシの気合いの入りようが面白く、からかわずには居られなかった。




「ばぁか」




ヒロシはムっとした表情をして、小さな声で言い返した。




「邪魔、するなよ」




「ん?聞こえねーよ」




「俺のナンパの邪魔すんなよ、って言ったんだよ」




その言葉にまた笑えた。




「邪魔なんてしねーよ。ナンパがんばれよヒロシ」




するとヒロシは舌打ちをして、持ってきた漫画を読み始めた。




ワン公を見ると、髪を脱色してきたようだった。




ルパンは髪をいつもよりしっかりセットしてきていた。




森木と俺以外は結局気合いが入りすぎている。




「森木よぉ、お前はそれでいいのかよ」




すると森木は「フン」と鼻で笑っただけだった。




俺はその後寝てしまい、森木に起こされたら、丁度ネズミーランドに着くところだった。




バスを降りると、駐車場から見えるシンデレラ城が余りにも本格的な作りだったので、不覚にも心が躍ってしまったのだった。




ヒロシは両手をズボンのポケットに入れながら、格好付けた顔で一番最後に下りてきた。




まだ入り口にすら着いていないのにこの気合いの入りよう。




ヒロシは今日、完全に勝負に出ている感じだった。




俺を見るなり、不思議とヒロシは勝ち誇ったような顔をした。




変だ。




ここで俺は異変に気が付いた。




ヒロシの勝ち誇った表情も変だが、クラスの皆も、俺を見てはすぐに目をそらした。




しかし特に何かが起こっている訳でもなかった。




すると入場券を配られたので、心配もすぐに消え、一路入場ゲートへと向かった。




中に入れば自由行動となる。




入り口の時点で、既に一般客や修学旅行生と思われる生徒で一杯だ。




勿論、目が行くのは女の子。噂以上に、というか、来場者の半数以上が女という状況を目の当たりにして、俺の気持ちは一気にたかぶった。




ルパンに目をやると、自信満々の顔でうなずかれた。




中に入ると、ネズミーやアヒルダックが女の子達に囲まれている。




子供の遊園地とバカにしていた俺だが、女の子の歓声に俺まで嬉しくなり、楽しい気持ちになった。




不思議な所だ。




入場ゲートをくぐった瞬間から、ここは紛れも無く夢の国だった。




ヒロシは早速どこかに行ってしまうし、森木の姿も消えていた。




ワン公とルパンは二人でお目当ての子を探しに行った。




俺は早速単独行動で動き始めた。




しばらく行くと、一人で歩く俺に、名前も分からない着ぐるみの人形が、風船を渡してくれた。




不良が一人、風船を持って歩く。




異様な光景だ。




行き交う人が俺をチラリと見ては目をそらす。




俺が不良だからか?




友達が居なくてかわいそうだからか?




風船を持って、実は結構楽しんじゃってる事がバレているからか?




すぐにその謎は解けた。




乗り物に乗るわけでもなく、ただネズミーランドの町並みを見ているだけで何気に楽しく、適当に歩いていたのだが、一人の女の子に目がいった。




売店の入り口で立っているその女の子も、一人で風船を持っていた。




ベリーショートの髪型で、今でいう木村カエラのような整った顔の女の子だった。




さっきからよく見掛ける制服を着ている。




おそらく何処からか来た修学旅行生だろう。




俺が見ていると、その子も俺を見た。




多少距離があったから、俺は人差し指を立てて、その子に向かって「一人?」とクチパクで伝えた。




するとその子はにこりと微笑んだ。




俺は早速歩み寄って話しかけた。




「一人?」と聞くと、「うん。君も一人なん?」と答えた。




驚いた。関西弁だった。




方言に弱い俺としては、一気にハートをわしづかみにされた気分だった。




「友達は?修学旅行で来てるんでしょ?」




「友達、彼氏持ちばっかりやから、私一人なんよ」




彼女の友達は彼氏と行動しているのだろう。




「じゃあ、俺と遊ぼうよ」




俺がそう言うと、その子はクスクスと笑った。そして俺の顔を指差しながら言った。




「っていうか、こっちはそういうの流行ってるん?」




「ん?何が?」




「額に、肉、って書いてるよ」




俺が不思議そうな顔をしていると、その子は俺に手鏡を渡してくれた。




俺は鏡で自分の顔を見た。




すると、額には「肉」の字が書かれていた。




全てが繋がった。




ヒロシの仕業だ。




勝ち誇ったヒロシの顔、そして行き交う人達の冷たい目、全てが一本の線で繋がったのだった。




森木やワン公達も、ヒロシのイタズラに気が付いていながら、俺をハメたのだった。




いつもイタズラして困らせている俺への、ささやかな抵抗だった。




しかし、俺の中では強烈なカウンターパンチだった。




頭の中でブチブチと血管が切れる音がした気分だったが、この場をしらけさせてはいけない。




俺は、苦笑いしながら答えた。




「あ、あぁ、これね。こっちじゃ結構流行ってるよ」




そう言いながら俺はブレザーの袖で、ごしごしと拭き取った。




それを見て彼女は笑った。




「私、絵美。君は?」




「達也。井口達也だよ。狛江北中。って言っても知らないよね、狛江。どこから来たの?」




「大阪。大阪じゃその笑いは通用しないかも」




そう言ってまた笑ったのだった。




俺は赤面した。




肉の字は俺がやったわけでもないのに、まるで俺がサムい人間のように思われてしまったのだった。




顔を真っ赤にしている俺を見て、絵美が言った。




「遊びいこ」




肉の字とヒロシをうらんでいいのか悪いのか。




結果としてナンパは成功したのだった。




俺と絵美は、持っていた風船を、店の脇にあった植木に結びつけ、歩き出した。



井口達也




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