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リョウキは辺りを軽く見回すと、歩く速度を上げて玄関に向かった。




見回りの先生に見つかると面倒なのだろう。




ここまできて俺も引き下がれないし、何なら前を歩くリョウキを後ろからぶん殴っても良かったが、俺はあることを思い出した。




そういえば外にはカバとバカがいる。




これは面白くなりそうだと直感した。




と同時に、今日はもう絵美には会えないと諦めるしかない状況だった。




俺はリョウキの数メートル後ろ歩き、さらに俺の後ろを剃り込み坊主頭がついてくる。




この状況を見たらいくらカバとバカでも何が起きているか察しがつくだろう。




無事に外に出ると、リョウキは振り向いた。




「ここじゃアレやから裏回ろか。ついてこいやガキ」




俺は辺りに目をやったが、カバとバカがいない。




帰ったのか。隠れているのか。




居ないなら居ないでもいい。




一人でやるだけだ。




ホテルの門を出て、そのままホテルの裏側に向かった。




いまだカバとバカが現われないところを見ると、一人で相手にするのは確実だ。




俺は殴りかかるタイミングを見計らっていた。




ホテルを取り囲む低い塀を一度曲がり、少し歩いた所でリョウキは立ち止まった。




ホテル側に塀がえぐれている形になっており、ホテルの敷地内に入っていけるようになっていた。搬入口か何かだろう。




人目も避けられそうだ。




ここで始まるのだろう。




すると「ドタッ!」という鈍い落下音がした。




「イッテ…うぅ…イテェ…」




テルだった。




「誰やお前。このガキのツレか」




リョウキが落ち着いた声で聞くと、テルは足を押さえ、痛みを堪えた涙目のままで答えた。




「せ、正義の味方だバカヤロウ」




リョウキは鼻で笑った。




「落ちて登場ってどんだけマヌケな正義の味方やねん」




おそらくテルは塀の上から偉そうに格好付けて登場する予定だったのだろう。




登場の仕方にこだわる本格的なバカだ。




しかも足を滑らせて落ちている。




しずかに塀によじ登っている所を想像すると笑えてきた。




救いようが無い。




俺はテルに言った。




「赤坊主のバカヒロシは何処行った?」




「ジュース買いに行ってる…。ヒロシが行ったらすぐにお前らが出てきたから後をつけてきたんだよ」




俺はリョウキに向かって行った。




「まぁ、何でもいいんだけどさ、おめーら年上だからって調子乗ってんじゃねーぞコラ。そこのゴリラが本気出したらカバになるからな。覚悟しろよ」




「意味分かんねーよ」




俺は上手い事を言ったつもりが、全く上手くなく、自分で言ったのに意味が分からなかった。




俺は恥ずかしさを誤魔化すために言葉を続けた。




「邪魔が入る前にさっさと始めんぞコラ。ナメられたまま東京から帰すわけにゃいかねーんだよ」




俺がそう言うとリョウキのすかした目が鋭くなった。




そして次の瞬間、リョウキが来ると思いきや、リョウキの横に控えていた剃り込み坊主が急に俺に向かってきた。




速かった。




先手必勝が喧嘩の常道。




しかし俺は予想外の展開に、踏み出すのが半歩遅れてしまった。




~つづく~



井口達也


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