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チキン番外編①
「これか?」
俺の問いかけにヒロシは「多分、な」とだけ答えた。
ホテルの敷地を取り囲むように低い塀がある。
正面の塀には「カミカゼ」と掘られた立派な看板がある。
ここで間違いないだろう。
古ぼけた白いホテルだ。
いかにも昭和に建てられましたといわんばかりの雰囲気があり、建物自体も高くはない。
あちこちの部屋には明かりがついている。
この中のどれかに絵美がいると思うと、マサシのことなど二の次だった。
「で、どうする?」
ヒロシが俺に言った。
その問いにテルが素早く反応した。
「おめーら、準備はいいか?」
「俺はいつでもいいぜ?」
俺がそう言うと、テルはまた言った。
「おし、じゃあおめーら、気を消せ」
その言葉にヒロシがすかさずつっこんだ。
「テル、もうそれ飽きたよ」
「俺も」
ヒロシの言葉に俺も続いて言った。
するとテルは恥ずかしそうに顔を赤くした。
テルなりにウケを狙ったのだろう。しかし、テルは想像以上のバカなので、本気で言ったのかもしれない。
「諦めついた?帰ろうぜ。改めて奈良に行こうよ。皆とわいわいさ」
ヒロシは予想していた通りの言葉を言った。
しかし俺には案があった。
「ヒロシ、大丈夫だぜ。俺に案がある」
俺の言葉を聞いてテルの表情が明るくなった。
そして俺を期待感一杯の目で見ている。
ヒロシの顔は半信半疑だ。
「何だよ。言ってみろよ」
「あのな…」
俺が言いかけるとテルの目はさらに大きく見開いた。
俺は言葉を続けた。
「まず入り口までは誰でも行けるじゃん?」
さらに見開くテル。
「でな、ドアが開くじゃん?」
さらに目玉が飛び出す位見開くテル。
期待度は最高潮のようだ。
「そしたらさ」
「そ、そしたら…?」
「全力ダッシュ!」
ポカンと口を開けるテル。
無言でさらに顔を近付け、もう一度言ってという意味で人差し指を立てた。
「だからさ、三人でダッシュしたら誰かは捕まらずに中まで入っていけんだろ」
俺の言葉を聞いて、ヒロシが言った。
「さ、帰ろ」
「なんでだよコラ」
「達也よぉ、今分かったよ。お前はテル以上のバカだわ」
「なんだコラ」
「案があるっつーから何だと思ったらさ、思いっきり正攻法じゃん。しかも中まで入っていけたとしてさ、それからどうすんの?」
「知らねーよ。なんとかなんだろ」
「…分かった。もういいわ。俺だけ帰るから達也とテルで好きにやってくれよ」
どうやら俺が考えに考えた秘策はヒロシは気に入らなかったようだ。
喧嘩のリベンジにはありつけないかもしれないが、マサシの顔を押し退けて絵美の顔が頭に浮かんでくる。
「まぁ待てよ。俺が様子を見てくるからさ、それでダメなら諦めようぜ。お前らここで待ってろよ。嫌なら帰ってもいいけどさ」
俺がそう言うと、テルが答えた。
「バカヤロウ、俺も行くぜ」
「中がどんなもんか見てくるからちょっと待っとけよ。テルがいると目立つだろ」
「おめーのボコボコの顔の方が目立つわボケ」
「フン」
俺はそう言ってホテルの入り口に向かって歩き出した。
~つづく~
井口達也
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