「ガハハ。それは無理や。達也じゃそいつには勝てないわ」




靖史の言葉に当然の如く苛立った俺だったが、靖史は俺にそれ以上構う事はなく、車を発進させた。




後部座席に座った俺とヒロシは、肘でお互いを押し合った。




ヒロシに頭を叩かれた事も忘れる訳がなく、ヒロシはヒロシで俺の無鉄砲さをもはや許せないといった感じだ。




「なぁ、また単車見に行っていいだろ?」




俺がそう言うと、靖史は「もう来んでええわ」と笑った。




そして「見に来るいうて、そのまま盗む気なんやろ?」と続けた。




最悪の場合そうしてでも手に入れたい程の単車だった。




俺は靖史の単車に一目惚れしていた。




「盗まねーって。ただ、見たくてさ」




盗まない保証は何処にも無いが、見たい、という思いは本当だった。




ガキの俺からしたら、単車は極上の玩具だった。




「それならええよ。また遊びにこいや」




「ああ」




「お前等すぐ東京戻るんやろ?」




「やる事やったら帰る…予定」




「喧嘩しに来たとか言うてたな」




「遊びに来たんだよ」




「なぁにが遊びや。そんで、何処の誰とやりあおうってのよ」




「なんとか高校。思い出せねーわ」




するとヒロシが「坂東だよ」とボソリと言った。




「ああそうだ。坂東高校つってたな」





俺がそう言うと、少し間をおいて靖史が「…そうなんや」と言った。




靖史はタバコの煙を大きく吐いた。




~つづく~



井口達也


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