「靖史、地元じゃ結構やらかしてたわけ?」



俺はアカシの話を聞きたかったが、素直に聞けなかったので、遠回しに暴走族ネタから聞きはじめた。



「まてまてまて。まてやコラァ。靖史、やないやろ。靖史さん、やろが」



俺は喧嘩をした相手なら、誰彼かまわず大抵呼び捨てにしてしまう悪い癖があったので、いつものように呼び捨てで呼んだら靖史に怒られた。



靖史は二十歳を過ぎた大人だし、さすがに「さん」付けで呼ぶべきだった。



しかし素直じゃない俺は「やっちゃんでいいべ。やーさんでもいいしな」と言いなおした。



「やーさんて。コラ。ヤクザみたいやないかい!」



靖史は口では怒っているが、顔は笑っていて、特に嫌な気はしていないようだ。




「まぁええわ。暴走族やったけど、別にそないやらかしてたわけやないでー。周りがちーとばかし悪かった位でな。俺は使いっぱよ」



「嘘つくんじゃねーよ」



靖史と二度拳を交えた俺は、靖史が実力者だと確信していた。



靖史は無駄に自分をひけらかさない本当に強い男の典型だった。



ヒロシは靖史が元暴走族と知った途端に、また萎縮してしまった。



「ぼぼぼ、ボウソーゾクだったんですね」



「ヒロシ、お前はよっぽどワルそうやな。そない赤い頭して」



「いえ、ぼくは、ただの平和的で平均的な普通の…中学生です。はい」



「その頭で普通かぁ。東京はこわいところやなぁ」



「ま、まぁ」



ヒロシがそう言うと、靖史は運転しながら横に居るヒロシの顔を覗き込んだ。



「あ、あのぉ…前、向いてください。事故りますよ」



「んー。顔は平均以下やな」



そう言って男は楽しそうに笑った。



「いやー、この仕事やってるとなぁ、いつも一人やろ?やっぱ誰かと話しながらの運転は楽しいわ」



かたやヒロシは全く楽しくなさそうだ。



「そういや赤い頭で思い出したわ。狛江ってところは赤い頭が流行ってるんかい?昔狛江の赤髪男と揉めた時は、ほんま参ったわ」



靖史はようやくアカシの話を始めた。




~つづく~

井口達也


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