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明らかに不機嫌になっている俺に、テルが言った。




「達也、俺たちも帰ろうぜ」




なんとも言えないやりきれなさが残った。




俺の前を歩くテルとヒロシは、菜穂の話で盛り上がっている。




俺と絵美の関係など、どうでもいいらしい。




二人は菜穂の話に夢中だ。




しばらくして、信号待ちの時にヒロシが俺に言った。




「あの子、誰?絵美って呼ばれてたけど。っていうか、つんつんって…何?まさか…達也だからつんつんって呼ばれてんの?ウケる」




俺は拳を振りかざした。




でも、やめた。




何だか少し疲れてしまったようだ。




浅草の駅に着くと、テルが切り出した。




「俺、菜穂ちゃんに惚れた」




ヒロシがそれに続いた。




「待てよカバこのやろう。菜穂ちゃんは俺の事が好きなんだよ」




「何だこの赤ザル。菜穂ちゃんはな、俺の事かわいいって言ったんだぜ?俺に惚れてんだよ。諦めろコラ」




「あ!?」




「何だコラ!?」




二人はまんまと菜穂に心を奪われたようだ。




「本人に確かめたらいいじゃん」と俺が言った。




すると二人で俺を見た。




「もう会えないじゃん」




ヒロシが言った。




それを聞いてテルが勝ち誇った顔で答えた。




「赤ザルよぉ、お前の負けだな。俺は奈良まで行って菜穂ちゃんに告白するぜ?お前は諦めろこの性病ザル」




「く…!このカバゴリラ!俺だって奈良に行って告白してはっきりさせてやんよコラ」





顔を真っ赤にして怒っているテルが俺を見て言った。




「達也、お前も行くだろ?」




少し考えたフリをしていると、テルが俺の顔に急接近した。




鼻と鼻がつくほどの近さだ。




「来い」




「…わーったよ」




ドロップ軍団、奈良遠征決定の瞬間だった。




~つづく~


井口達也

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