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何か気にさわるような事をしてしまったのだろうか。




せっかくの再会なのに絵美の表情が浮かない。




菜穂が俺たちに向かって歩き始めると、絵美はうつむき加減のまま後をついてきた。




俺は戸惑った。




本当は俺から近付いていきたい位だったが、どうやらそういう雰囲気ではない。




「あちゃ~。あんたら派手にやらかしたなぁ。どんだけ喧嘩好きやねん。アホちゃう?」




そう言って菜穂が笑った。




そして、うつ伏せになって倒れたままのテルに近付き、しゃがみこんでテルの顔を覗き込んだ。




ピクリともしないテルの肩をゆすり、「おにーさーん。おにーさーん。閉店ですよー」というと、テルは少しうなった。




「う、うぅん。うぅ…。かぁちゃん、俺のカステラ…どこ」




テルは寝言を言った。




気絶していたのか寝ていたのか、とにかく普通のものさしでは測れない男だ。




「ここやで。ほら、食べぇ」




菜穂がまた肩を揺すると、テルは目を見開いた。




そしてすぐに体を起こし、周りを見渡した。




「お、おい!どうなった!あいつどこだ!あいつぶっ飛ばす!」




どうやら完全に目が覚めたようだ。




その様子を見て、菜穂がなんとテルの頭を撫でた。




「よしよし。いいこいいこ。もうやらんでええよ。終わったよ。なでなで」




テルはポカンと口を空けて菜穂を見つめている。




「アンタ、かわいい顔してるやん。私のタイプやわぁ」




「ば、ど、う…、ぐ…、は、はぁ?な、なにこの状況?何々?ドドド、ドッキリ?ドッキリか達也!?」




寝起きの上に突然の展開にテルはあきらかにうろたえている。




俺を見るが、すぐに菜穂を見て、また俺を見た。




そして恐る恐る、ゆっくりとまた菜穂を見た。




菜穂はにこりと笑うと、今度はリョウキを見て言った。




「リョウキ、そこで寝てる鈴木のおっちゃん連れてはよ戻った方がええんちゃう?そろそろ点呼やよ」




俺と喧嘩をした出っ歯坊主は鈴木のおっちゃんと呼ばれているようだ。




たしかに老け顔だ。




リョウキは舌打ちをした。




そして俺に言った。




「おいガキ。おめーらのことやから、どうせマサシとやるまで追ってくるんやろ?」




「さぁな」




リョウキは俺の返事を鼻で笑うと、鈴木を引きずるように立たせ、搬入口のようなところからホテルの敷地へと入っていった。




これで現場には俺とヒロシとテル、そして菜穂と絵美だけになった。




~つづく~



井口達也


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