『源氏物語』第4帖「夕顔」~第9章~
夕顔⑨【夕顔の四十九日】
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かの人の四十九日、忍びて比叡の法華堂にて、事そがず、装束よりはじめて、さるべきものども、こまかに、誦経などせさせたまひぬ。経、仏の飾りまでおろかならず、惟光が兄の阿闍梨、いと尊き人にて、二なうしけり。
御書の師にて、睦しく思す文章博士召して、願文作らせたまふ。その人となくて、あはれと思ひし人のはかなきさまになりにたるを、阿弥陀仏に譲りきこゆるよし、あはれげに書き出でたまへれば、
「ただかくながら、加ふべきことはべらざめり」と申す。
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【夕顔390-1】かの人の四十九日
【夕顔390-2】
【夕顔390-3】
【夕顔391-1】経、仏の飾りまで
【夕顔391-2】
【夕顔391-3】
【夕顔392-1】御書の師にて
【夕顔392-2】
【夕顔392-3】
【夕顔393-1】その人となくて
【夕顔393-2】
【夕顔393-3】
【夕顔394-1】あはれげに
【夕顔394-2】
【夕顔394-3】
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忍びたまへど、御涙もこぼれて、いみじく思したれば、
「何人ならむ。その人と聞こえもなくて、かう思し嘆かすばかりなりけむ宿世の高さ」
と言ひけり。忍びて調ぜさせたまへりける装束の袴を取り寄せさせたまひて、
「泣く泣くも今日は我が結ふ下紐を
いづれの世にかとけて見るべき」
「このほどまでは漂ふなるを、いづれの道に定まりて赴くらむ」と思ほしやりつつ、念誦をいとあはれにしたまふ。頭中将を見たまふにも、あいなく胸騒ぎて、かの撫子の生ひ立つありさま、聞かせまほしけれど、かことに怖ぢて、うち出でたまはず。
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【夕顔395-1】忍びたまへど
【夕顔395-2】
【夕顔395-3】
【夕顔396-1】忍びて
【夕顔396-2】
【夕顔396-3】
【夕顔397-1】このほどまでは
【夕顔397-2】
【夕顔397-3】
【夕顔398-1】頭中将を
【夕顔398-2】
【夕顔398-3】
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かの夕顔の宿りには、いづ方にと思ひ惑へど、そのままにえ尋ねきこえず。右近だに訪れねば、あやしと思ひ嘆きあへり。確かならねど、けはひをさばかりにやと、ささめきしかば、惟光をかこちけれど、いとかけ離れ、気色なく言ひなして、なほ同じごと好き歩きければ、いとど夢の心地して、「もし、受領の子どもの好き好きしきが、頭の君に怖ぢきこえて、やがて、率て下りにけるにや」とぞ、思ひ寄りける。
この家主人ぞ、西の京の乳母の女なりける。三人その子はありて、右近は他人なりければ、「思ひ隔てて、御ありさまを聞かせぬなりけり」と、泣き恋ひけり。右近はた、かしかましく言ひ騒がむを思ひて、君も今さらに漏らさじと忍びたまへば、若君の上をだにえ聞かず、あさましく行方なくて過ぎゆく。
君は、「夢をだに見ばや」と、思しわたるに、この法事したまひて、またの夜、ほのかに、かのありし院ながら、添ひたりし女のさまも同じやうにて見えければ、「荒れたりし所に住みけむ物の、我に見入れけむたよりに、かくなりぬること」と、思し出づるにもゆゆしくなむ。
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【夕顔399-1】かの夕顔の宿り
【夕顔399-2】
【夕顔399-3】
【夕顔400-1】確かならねど
【夕顔400-2】
【夕顔400-3】
【夕顔401-1】いとかけ離れ
【夕顔401-2】
【夕顔401-3】
【夕顔402-1】もし、受領の
【夕顔402-2】
【夕顔402-3】
【夕顔403-1】この家主人ぞ
【夕顔403-2】
【夕顔403-3】
【夕顔404-1】右近はた
【夕顔404-2】
【夕顔404-3】
【夕顔405-1】君は夢をだに
【夕顔405-2】
【夕顔405-3】
【夕顔406-1】荒れたりし所
【夕顔406-2】
【夕顔406-3】
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伊予介、神無月の朔日ごろに下る。女房の下らむにとて、たむけ心ことにせさせたまふ。また、内々にもわざとしたまひて、こまやかにをかしきさまなる櫛、扇多くして、幣などわざとがましくて、かの小袿も遣はす。
「逢ふまでの形見ばかりと見しほどに
ひたすら袖の朽ちにけるかな」
こまかなることどもあれど、うるさければ書かず。
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【夕顔407-1】伊予介
【夕顔407-2】
【夕顔407-3】
【夕顔408-1】また内々に
【夕顔408-2】
【夕顔408-3】
【夕顔409-1】逢ふまでの
【夕顔409-2】
【夕顔409-3】
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御使、帰りにけれど、小君して、小袿の御返りばかりは聞こえさせたり。
「蝉の羽もたちかへてける夏衣
かへすを見てもねは泣かれけり」
「思へど、あやしう人に似ぬ心強さにても、ふり離れぬるかな」と思ひ続けたまふ。今日ぞ冬立つ日なりけるも、しるく、うちしぐれて、空の気色いとあはれなり。眺め暮らしたまひて、
「過ぎにしも今日別るるも二道に
行く方知らぬ秋の暮かな」
なほ、かく人知れぬことは苦しかりけりと、思し知りぬらむかし。かやうのくだくだしきことは、あながちに隠ろへ忍びたまひしもいとほしくて、みな漏らしとどめたるを、「など、帝の御子ならむからに、見む人さへ、かたほならずものほめがちなる」と、作りごとめきてとりなす人ものしたまひければなむ。あまりもの言ひさがなき罪、さりどころなく。
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【夕顔410-1】御使帰りにけれど
【夕顔410-2】
【夕顔410-3】
【夕顔411-1】思へど
【夕顔411-2】
【夕顔411-3】
【夕顔412-1】眺め暮らし
【夕顔412-2】
【夕顔412-3】
【夕顔413-1】なほかく、人知れぬ
【夕顔413-2】
【夕顔413-3】
【夕顔414-1】など、帝の御子
【夕顔414-2】
【夕顔414-3】
【夕顔415-1】作りごと
【夕顔415-2】
【夕顔415-3】
◇登場人物一覧◇