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1 権利行使制限の抗弁と権利濫用の抗弁との関係

 

 

 

(1)問題の所在

 

特許法に関するキルビー事件最高裁判決(最高裁平成12411日判決・民集5441368頁)において、権利無効が明らかである場合の権利行使は権利濫用として認められないとされてから、商標権侵害訴訟においても、権利無効を理由とする権利濫用の抗弁が見られるようになった。特許権侵害訴訟における権利濫用の抗弁は、権利者の主観や当事者間の関係性などを一切考慮しないで判断されることから、本来の(民法上の)意味での権利濫用の抗弁とは異なる。

 

 

 

商標権侵害訴訟においては、「権利濫用の抗弁」と言っても、権利が無効であることを理由とする抗弁と、必ずしも無効主張と結びつけず、むしろ原告商標権者による商標取得の経緯や被告が被告標章を使用する正当性といった権利者の主観および当事者間の関係性に主眼を置く抗弁とがあり、両者は別のものとして区別されることが多い。本稿では前者を「特許法的権利濫用の抗弁」と呼び、後者を「民法的権利濫用の抗弁」と呼ぶことにする。

 

 

 

特許法的権利濫用の抗弁を認めた裁判例として、キルビー事件最高裁判決以降のものとしては東京地裁平成13928日判決・判例時報1781150【モズライト・ギター事件】ほかがある。

 

 

 

特許法および商標法の平成16年改正(裁判所法等の一部を改正する法律(平成16年法律第120号)により、商標権に無効理由が存する場合は、商標法39条で準用される特許法104条の3の抗弁が主張できることとなった。特許法104条の31項を読み替えると、「商標権又は専用使用権の侵害に係る訴訟において、当該商標登録が商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、商標権者又は専用使用権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」となる。

 

 

 

しかしながら、商標登録無効審判は、無効理由によっては、登録日から5年を経過した後は請求することができないという除斥期間の規定がある(商標法471項)。4条1項10号を理由とする場合も5年の除斥期間の対象となるが、「不正競争の目的」で商標登録を受けた場合には5年を経過した後も無効審判を請求できる(同項)。

 

 

 

そこで、商標法39条で準用される特許法104条の3にいう「当該商標登録が商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」とは、登録日から5年を経過していない(または、経過していても「不正競争の目的」で商標登録を受けた場合にあたる)という商標法471項の要件まで満たすことが必要なのかという問題(以下「論点1」という)がある。

 

さらに、論点1について、除斥期間の制限を受けて無効審判を請求できないときは特許法104条の3の抗弁(権利行使制限の抗弁)を主張できないとする立場(制限説)を採る場合、権利濫用の抗弁を主張できるかという問題(以下「論点2」という)が生じる。

 

 

 

(2)学説の整理

 

論点1と論点2についての組み合わせにより、概ね、以下の3説に整理することができる(商標法4110号の無効理由に基づく場合)。

 

 

 

A説 「当該商標登録が商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」とは、商標法471項の要件まで満たす必要はなく、除斥期間を経過していても(商標権者の「不正競争の目的」の有無にかかわらず)被告は特許法104条の3の抗弁を主張できる。

 

 

 

B説 「当該商標登録が商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」とは、商標法471項の要件まで満たす必要があり、除斥期間を経過しているときは(商標権者に「不正競争の目的」が認められない限り)被告は特許法104条の3の抗弁を主張できない。しかし、被告は(商標権者の「不正競争の目的」の有無にかかわらず)権利濫用の抗弁を主張できる。

 

 

 

C説 「当該商標登録が商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」とは、商標法471項の要件まで満たす必要があり、除斥期間を経過しているときは(商標権者に「不正競争の目的」が認められない限り)特許法104条の3の抗弁を主張できない。また、特許法104条の3の抗弁が主張できないときは権利濫用の抗弁も主張できない。

 

 

 

A説を採る学説として三村量一「商標登録無効の抗弁と除斥期間」中谷信弘先生古稀記念論文集875891頁などがある。B説を採る学説として平尾正樹「商標法[2次改訂版]」406~407頁、422423頁、C説を採る学説として渋谷達紀「知的財産法講義Ⅲ[第2版]」481482頁がある。

 

 

 

(3)エマックス事件最高裁判決

 

最高裁平成29228日判決・平成27年(受)第1876号・民集712221頁【エマックス事件】は、上記のB説を採用したものである(原判決はA説または論点に気付いていない)。論点1について制限説(すなわちB説またはC説)を採るべきことは条文の文言解釈として首肯し得る。しかし、同じような事実関係に基づく主張であっても、特許法104条の3の抗弁として除斥期間経過後に主張するときは商標法47条1項の趣旨を没却し、権利濫用の抗弁として除斥期間経過後に主張するときは没却しないという本判決の理論は理解し難い。

 

 

 

判決の射程距離については留意すべきである。すなわち、仮にまったくの無権限である第三者が商標権侵害訴訟の被告であった場合(しかし、訴外第三者の周知商標のために4条1項10号の無効理由がある)にすぎないのであれば、(5年経過の前後にかかわらず)権利濫用の抗弁は認めるべきでない。本判決が「商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として」(下線筆者)と述べているのは、この趣旨をいうものと解される。なお、この仮想事例において、仮に登録日から5年経過していなければ、権利濫用の抗弁は認められないが特許法104条の3の抗弁は認められるということになろう。調査官解説(Law & Technology76号63頁)も同様の立場を採る。

 

 

 

2 商標の無効理由が存すれば直ちに権利濫用の抗弁が認められるか

 

本判決は、権利濫用の抗弁についてポパイ事件最高裁判決(最高裁平成2年7月20日判決・民集44巻5号876頁)を引用しており、周知商標の使用者については、あくまで民法的権利濫用の抗弁を想定しているようにも読める。そうであれば、原告商標権者による商標取得の経緯や被告が被告標章を使用する正当性といった事情こそが重要であることになろう。にもかかわらず、商標法4条1項10号の無効理由が存すれば直ちに権利濫用の抗弁が認められるかのように判示をしたことは疑問がある。山崎裁判官の補足意見によれば「権利の濫用と判断される場合の一つの類型化された事例を示すもの」とのことであるが、説得的とは言えない。

 

 

 

3 権利濫用の抗弁は黙示的な主張でもよいか

 

 本件において、反訴被告は特許法104条の3の抗弁のみを主張し、権利濫用の抗弁を明示的には主張していない。にもかかわらず、本判決は反訴被告による商標法4条1項10号の無効理由がある旨の主張を「権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される」としている。弁論主義に反するとまでは言えなくとも、かなり疑問であり、適切な釈明を行わなかった原審の救済という側面があろう。

 

 

 

4 エマックス事件判決の評価とまとめ

 

 商標権侵害訴訟における権利行使制限の抗弁が除斥期間の制限を受けること、しかし権利濫用の抗弁については除斥期間経過後も主張できることを明らかにした点において、本判決は一定の評価をしてよい。しかし、同じような事実関係に基づく主張であっても、権利濫用の抗弁であれば無効審判請求に除斥期間を設けた法の趣旨に反しないとの理由付けは理解が困難である。権利濫用の抗弁は原告商標権者による商標取得の経緯や被告が被告標章を使用する正当性といった事情こそが重要なはずであり、主張の根拠となる事実が権利行使制限の抗弁の場合とは必ずしも一致しない。平成16年改正法の施行後において、無効理由があれば権利濫用の抗弁も当然認められるというのは同意しかねる。権利濫用の抗弁には無効理由と必ずしも一致しない事情が必要と解して初めてB説を正当化できる。

 
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日経新聞201776日夕刊によると、和歌山県の「マサキ珈琲」の運営会社を「コメダ珈琲店」の運営会社が訴えていた問題で、両者が和解したという。

 

 

 

本訴に先行して、コメダ側は仮処分で勝訴しており(東京地裁平成281219日決定・平成27年(ヨ)22042号)、その評釈がNBL1097号(201751日)に掲載されている。




写真は、プレスリリースでコメダ側が提供したもの。


 

コメダ側は、コメダ珈琲店の①店舗外観(外装、店内構造および内装)ならびに②商品(飲食物)と容器(食器)の組合わせを真似したと主張して不正競争防止法2条1項1号・2号の適用を主張したが、①の主張のみ認められた。

 

決定を読んで面白いと思ったのは、本件の紛争に至る経緯である。マサキ側は、もともとコメダ珈琲店のフランチャイジーになろうとして申し込んだのだが、他のフランチャイジーとの関係で断られた。ところがそこであきらめず、コメダ珈琲店とそっくりな店舗デザインの建物を建て、マサキ珈琲1号店として開業したという。


ちなみにマサキ珈琲の運営会社はいろいろな事業を手掛けているらしく、あの「コブクロ」の才能を見出して、マネジメントをしている会社だそうである(ネット情報)。



先日の著作権法学会で知った「ステラ・マッカートニー青山」

店舗デザイン事件も興味を引く。

 

ステラ・マッカートニー青山の店舗建物の「外観デザイン監修」を手がけた建築事務所が、本件建物を設計・施工したゼネコン等に対し、著作者人格権を有することの確認などを求めて提訴したという事案だ(侵害事件ではない)。



施主はゼネコンに単独で設計させているのだが、途中で原告建築事務所にも案を出させた。それで出て来たのが下の写真の左側の模型で、上部(2階以上)に日本の伝統的な文様である組亀甲をレリーフのように立体的に用いているのが特徴。組亀甲模様のアイデアは最終的に被告ゼネコンが設計した本件建物(写真右側)にも採用された。


すべての建築が著作物性を有するわけではなく、裁判例では、かなり芸術性の高いデザインでない限り建築の著作物と認められていない。むしろ、ほとんどの建築は著作物ではないと言っても過言ではないということ(学説では反対説もある)は以前にブログに書いたが、本件では事案の性質上、本件建物が建築の著作物であることは争点になっていない。

 



写真は(株)照井信三建築研究所Twitterから拝借した。


判決は、簡単にいうと、原告の貢献は被告ゼネコン(竹中工務店)の「設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列するとのアイデアを提供したものにすぎない」から著作者ではないという。




組亀甲というのは、こんな図柄。

 

組亀甲【くみきっこう】

 

組亀甲とは、六角形の網目を出すよう組んでみえる文様の事。亀甲が六角形で長寿の象徴である。

 

出典:http://www.modalina.jp/modapedia/w/e7b584e4ba80e794b2/

 


勉強になりますね。


なお判決では「ファサード」という用語を説明なく用いているが、これはいかがなものか。facade(フランス語由来の英語)とは辞書によると建物の「正面」をいうそうだが、実際は、「正面外観」のニュアンスであり、必ずしも正面に限られないそうであるからむしろ「外観」と訳した方がよいのかもしれない。


ちなみにステラ・マッカートニーはポール・マッカートニーの娘だそうである。


市民向けの講座の準備をしているところで集めたネタなので、専門的な分析はしていないことはご了解ください。


 





 




 
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 かなり以前に「行政法と特許法の関係 」という記事(以下「前回記事」という)を書いた。前回記事は2010年11月20日付である。


 その後、大きな状況の変化が2つあったので記しておきたい。今でも人気の記事だし、このテーマで検索すると上位に表示される重要な記事なのだが、タイムリーでなくて申し訳ないです。


 第一は、行政不服審査法が平成26年(2014年)に全面改正されたこと。

前回記事の条文は、すべて改正前の条文である。


 旧法では、処分庁以外(上級庁等)に対して行う「審査請求」と、処分庁に対して行う「異議申立て」の区別があったが、平成26年改正で審査請求に一本化された(行政不服審査法2条)。

  

 なお旧法では、行政庁の処分に対して不服のある者は審査請求または異議申立てができるのが原則である(旧行政不服審査法4条1項本文)としながら、「他の法律に審査請求または異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」は、この限りでない(同項但書)としていた。平成26年改正法では但書に相当する規定はないが、行審法は行政不服審査についての一般法であるので、当然の前提とされている。したがって、この点は変更がない。


 第二は、他の法律における別段の規定であるところの特許法195条の4についての、知財高裁平成27年6月10日判決・平成26年(行コ)10004号が出たことである。


 

 上記判決の結論は、特許法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含むということである。


 特許の登録査定に対して、出願人自身が改正前の行政不服審査法に基づく異議申立てを行い、その結果として行政事件訴訟法に基づく取消訴訟の出訴期間(6か月)を徒過した事案において、知財高裁は、特許法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含むので、異議申立ては不適法である(初めから取消訴訟を起こすべきであった)とした。この判旨によると、異議の申立と関係なく、出訴期間は査定を知った日から6か月である(行政事件訴訟法14条1項)。

 

 上記事案は、クレームを間違えて記載した(審査官も間違いに気づかなかった)という状況で、特許権者が自ら特許査定の無効または取消を求めた事案であり、特殊と言えば特殊な事実関係であるが、特許法195条の4の「査定」に特許査定を含むという解釈は、この判例で定まったと思われる。


 知財高裁平成27年6月10日判決の射程距離であるが、あくまで、特許査定について出願人自らが不服申し立てをする場合に限定されると思われる。特許査定について第三者が不服申し立てをする場合は、(登録後ではあるが)異議の申立てや無効審判の請求ができることと、無効不成立の場合は審決に対する取消訴訟が特許法に規定されているのだから、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を起こすことはできないはずだ。一般法と特別法の関係の問題である。行審法に基づく審査請求ができないことは特許法195条の4で説明しても、一般法と特別法の関係で説明しても、結論は同じことである。

 

 

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