知財弁護士の本棚 -2ページ目

知財弁護士の本棚

企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 著作権の保護期間を著作者(作家、画家、作曲家等。以下「作家等」といいます)の死後70年と理解している方が多いですが、それだけでは判断を誤ります。

 

 まず保護期間は暦年主義ですので、起算点は死亡「年」だけが関係し、満了は常に12月31日です(著作権法57条)。具体的には、「死後70年」というのは、死亡年の翌年を1年目として計算しますので、死亡年プラス70年の年の12月31日24時に満了するという意味です。

 また死亡年を基準にするのは実名公表された著作物であり、無名・変名公表の著作物は原則として公表年が基準になります(著作権法51条、52条)。

 

 さらに、経過措置との関係で、死後70年経過していなくともパブリックドメインになっている(許諾なく利用できる)可能性があります。著作権の保護期間が(映画以外の著作物について)70年に延びたのは平成28年改正です。その施行時(平成30年=2018年12月30日)に期間満了で著作権が消滅している著作物は、改正前の保護期間(映画以外の著作物は死後50年)の延長はありません。

 

 具体的には、1967年12月31日までに死亡している作家等の実名公表した著作物は遅くとも2017年12月31日までに保護期間が満了していますので、パブリックドメインになっています。

 死後70年、保護されるのは1968年1月1日以降に死亡した作家等のみですので、注意してください。

  

 ただし連合国の国民が第二次大戦前または戦中に取得した著作権については戦時加算があるため、例えば1967年死亡の作家等が実名公表した著作物の著作権が平成28年改正法の施行時に消滅していない(よって70年に延長される)可能性があります。

 

 要するに、その作家等の死亡年と、戦時加算の適用の有無によって結論が変わりますので、「死後70年経過していればその作品を許諾なく利用できる」という理解は正確ではありません。

 不正競争防止法2条1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争行為と定義しており、一般に「虚偽事実告知流布」行為といわれる。

 

 東京地裁令和4年3月4日判決・令和3年(ワ)3824号は、原告:モバイルWiFiルーターを利用したインターネット接続サービスを提供する事業者、被告:WiMAX比較サイトを運営し、アフィリエイト収入を得る個人、という事案で競争関係を認め、原告の損害賠償請求を一部、認めた。

 

 なお原告商品はWiMAXではない(被告サイトをよく読めば、その旨が記載されている)。にもかかわらず、原告商品は被告サイトのWiMAX比較ランキングにおいて最下位にランキングされていた。

 

 主な争点は、原告被告がそもそも「競争関係」にあるかという点だが、本判決は次のように判示してこれを認めた。

 

 「不正競争防止法2条1項21 号に規定する「競争関係」とは、商品販売上の具体的な競争関係がある場合に 限定されるものではなく、虚偽の事実を告知又は流布した者が、他人の競争上 の地位を低下させることによって、不当な利益を得る場合をも含むと解するのが相当である。」

 

 「前記前提事実によれば、原告の需要者はモバイルWiFiルーター等の契約を希望する者であるのに対し、本件サイトの需要者は、WiM AXの契約を希望する者であって、両商品は、いずれも携帯可能な無線通信の ための規格であるという点において共通しているところ、本件サイトにおいて は、本件各商品のうち、原告商品及びBroad WiMAXを除いた本件WiMAX商品についてのみ、アフィリエイトリンクが設定されている。そのため、本件サイトを閲覧した者が本件サイトを通じて商品を契約する場合において、被告は、上記の者が原告商品を契約した場合には何らの経済的利益を得られないのに対し、Broad WiMAXを除いた本件WiMAX商 品を契約した場合にはアフィリエイト報酬を得ることができることになる。 これらの事情の下においては、被告は、原告商品について虚偽の事実を告知又は流布し、原告の競争上の地位を低下させることによって不当な利益を得る ことができる関係にあるものと認められる。」

 

 しかし「虚偽の事実を告知又は流布した者が、他人の競争上 の地位を低下させることによって、不当な利益を得る場合をも含む」という基準は、「競争関係」という条文の文言からは乖離しているように思われる。

 また「不当な利益を得る場合をも含む」というのであるから、本件では被告がアフィリエイト収入を得ていたことが決め手となっている。逆にいうと個人が趣味で比較サイトを運営する場合は対象にならないということになる。将来、その中間的な線引きの難しい事案も出てこないだろうか。

 

 さらに疑問として、原告商品はWiMAXではないのだから、原告サービスの導入を検討する者が被告サイトを見る可能性はかなり低いと思われる。この点については、判決は損害賠償額の減額で対応しているが(請求550万円、認容22万円)、そもそも競争関係がないとする方が妥当ではないか。

 

 明らかにおかしいというわけでもないが、問題のある判決のように思われる。

 

 いつの間にか8月になってしまいましたが、弁理士会の会誌「パテント」2022年7月号に論文が掲載されましたのでお知らせします。


 タイトルは「アメリカ特許法における新規性」です。


 9月初めころに、ネット上で一般にも公開されるそうです。

 内容の紹介に代え、目次を記載しておきます。






 

1.はじめに

2.先発明主義と先願主義

(1)アメリカ特許法における先発明主義の伝統

(2)先発明主義の限界と訂正

(3)AIAによる新規性の規定改正

3.特許法102条の規定

(1)特許法102条の全体構造

(2)公知公用・刊行物記載による新規性喪失とその例外

(3)先願による新規性喪失とその例外

4.クレームされた発明の認定

5.新規性の判断基準と選択発明

(1)新規性の判断基準

(2)選択発明

6.先行技術としての適格性

7.おわりに


 よろしくお願いします。