訂正の部分確定の問題について | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 愛媛の方言では、「頭が痛い」ことを「頭が悪い」というそうである。


 私も特許の訂正と無効の関係を考え始めるといつも頭が悪くなる、じゃなくて痛くなる。


 具体例で考えよう。Xの有する特許Aは請求項1~4まであり、1のみが独立項である。Yは特許Aの請求項1~4に係る特許について無効審判を請求した。Xはその審判手続き中で、請求項1~4を減縮するような訂正請求をした(第1次訂正)。


 審決は、「本件訂正を認める。請求項1に係る特許を無効とする。請求項2ないし4に係る審判請求は成り立たない。」というものであった。よくあるパターンだ。


 そこでXのみが審決取消訴訟を提起し(「本件審決のうち「請求項1に係る特許を無効とする」との部分を取り消す、との判決を求める」、となる)、Yは取消訴訟を提起しなかった。


 この時点での法律関係であるが、最近の有力な考え方(飯村説と言ってよいかと思う)では、審決の「請求項2ないし4に係る審判請求は成り立たない。」の部分は提訴されなかった以上、確定しており、請求項2ないし4に係る部分の訂正も確定しているという。


 しかし、請求項2ないし4は請求項1の従属項であるから、ここだけ先に確定するというのは、私は違和感があるし、実際、かなりややこしいことになるように思う。


 Xが特許法126条2項但書により訂正審判(第2次訂正)を請求し、181条2項による取消決定を求めた。裁判所としては、取り消すべしと思った場合、主文は「本件審決のうち「請求項1に係る特許を無効とする」との部分を取り消す」のようになる。


 このとき、134条の3、5項により、この訂正審判(第2次訂正)は、差戻し後の審判手続きにおいて新たな訂正請求とみなされることになろう。すると134条の2、4項により、先の訂正請求(第1次訂正)は取り下げたものとみなされるはずだが、上記有力説では、請求項2ないし4に係る訂正は既に確定しており、みなし取下げの効果は生じない。請求項1についての訂正請求(第1次)のみ、みなし取下げとなる。


 そうすると差戻し審では、請求項1については、原クレームとの対比において第2次訂正が認められるかを判断し、請求項2~4については、第1次訂正後のクレームとの関係で第2次訂正が認められるかを判断することになるのだろうか。

 このとき、特許権者としては、請求項2~4について、第2次訂正が認められると、権利範囲が狭くなるのでうれしくないが、請求項2~4についての訂正請求のみ取り下げればよいのだろうか。いや、従属項だからそれは無理だろう。


 また、請求項1についての訂正を認めない、請求項1に係る特許は無効との判断になった場合、従属項だけ残っても意味が不明である。そこで実務上は請求項2が独立項になるような新たな訂正請求をさせるやに聞いているが・・?

 

 説例で、Yも取消訴訟を提起した方が話は簡単そうだ。この場合、Yは請求の趣旨をどう書くべきか。「本件審決のうち「訂正を認める。」「請求項2ないし4に係る審判請求は成り立たない。」の部分を取り消す、のようになるだろうか。


 似たような事案で私どもがXを代理していたところ、Yが請求の趣旨に単に「本件審決を取り消す」と書いてきたので、びっくりした。訂正は一体不可分と考えておられるのだろうか。普通に考えると請求項1については訴えの利益がないはずだが・・。しかし裁判所も「おかしい」とも何とも言わない。どうなっているのか?


 この場合、181条2項の決定を出すとき、必ず「本件審決を取り消す」になるのか、それとも「本件審決のうち「請求項1に係る特許を無効とする」との部分を取り消す」ということもあり得るのか。「本件審決を取り消す」だと、2~4項について「無効ではない」とした審決の判断まで取り消されてしまうのでXとしてはうれしくないが、「請求項1に係る特許を無効とする」の部分のみ取り消されると、それはそれでややこしい。


 知財高裁平成19年7月23日判決・判例時報1998号110頁が、本稿の説例にかなり近い。

 よく引用される知財高裁平成19年6月20日判決は、この説例でいうと、訂正が請求項4のみについてなされていた事案であり、ちょっと違う。


 なお最高裁平成20年7月10日判決は、(異議手続中における)訂正請求の可否を請求項ごとに判断すべきことを述べたものであり、「訂正の効力が請求項ごとに確定するか」を述べたものではない。したがって参考にならない。

 

 今の制度改正の議論では、ここら辺が整理されるようだが、もう少し分かりやすい制度にしてもらいたいものだ。専門家がウンウン唸るような制度が一般の人に理解できるわけがない(飯村先生の理解力を基準に制度を作ったら大変なことになる)。単に私の理解力が足りないだけかもしれないが・・。