弁護士業務に下請法の適用はあるか | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 先日、公正取引協会の下請法のセミナーに参加したところ、「弁護士の意見書作成業務に下請法の適用はない」と言われて、軽くショックでした(笑)。


 下請法の対象取引は、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に限定されています。


 弁護士による意見書の作成は、③情報成果物作成委託にあたりそうですが、情報成果物作成委託というのは、以下のいずれかでなければなりません。


(A)親事業者が他者(事業者や一般消費者)に提供するための情報成果物の作成を下請事業者に委託する「第1類型」。具体例として、雑誌の記事や写真を個人事業主であるライターやカメラマンに委託する取引。



(B)親事業者が他者(発注者)から受託した情報成果物の作成を下請事業者に再委託する「第2類型」。


(C)親事業者が、自社で使用する情報成果物の作成を業として行う場合に、その作成行為を下請事業者に委託する「第3類型」。


 弁護士の意見書作成業務は、あたるとすれば第3類型なのだけれど、通常、弁護士の意見書作成業務を「業として行う」(つまり内製しているということ)会社はない。だから第3類型にあたる可能性は低い、というのがセミナーの結論。


 なお、法律事務所が顧客から受託した意見書作成業務を別の法律事務所に再委託した場合は(そういう例はあまりないかもしれませんが)、第2類型に該当すると思われます。しかし、親事業者に該当するには、資本の額または出資総額が1000万円超であることを要します。


 ですので、出資総額が1000万円を超える弁護士法人であれば親事業者になりうると思いますが、そういう弁護士法人が実在するのかは知りません。


 また④役務提供委託については、


(A)親事業者が他者(事業者や一般消費者)に提供するための役務の提供を下請事業者に委託する(下請事業者による役務は、親事業者の顧客に直接提供される)


という類型しかありません。


 一般の会社が、弁護士の作成した意見書を業として第三者に提供することは違法(弁護士法違反)ですので、弁護士の意見書作成業務が役務提供委託に該当するというのは(違法な取引でない限り)考えられません。


 会社が自ら使用する目的の意見書であれば、そもそも「役務提供委託」の定義にあたりません。


 意見書の作成ではなく、法律相談業務のようなものについては、「成果物」がないので情報成果物作成委託に該当する余地がありません。


 会社が自ら使用する目的の法律相談(つまり自社の問題について弁護士のアドバイスを受けること)は、アドバイスの内容を業として他者に提供するわけではないので、役務提供委託にもあたりません。


 余談ですが、弁理士による明細書作成業務については、内製化している会社もありますので、日常的に明細書を内製している会社が一部の明細書の作成を外注する場合は、情報成果物作成委託にあたる可能性があると思います。しかし、明細書が自社で使用するためのものかというと、そこは疑問があります。