出願後の実験結果の提出について | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 小松陽一郎・藤野睦子「後出しされた実験結果を参酌した上で、進歩性を肯定した事例」(知財管理2011年3月号)を拝見した。


 論考は知財高裁平成22年7月15日判決・平成21年(行ケ)10238号を紹介したものである。同判決は


特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり,当初明細書に,「発明の効果」について,何らの記載がないにもかかわらず,出願人において,出願後に実験結果等を提出して,主張又は立証することは,先願主義を採用し,発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので,特段の事情のない限りは,許されない


と原則を述べておきながら、


当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許される


として、本件の場合は出願後に追加された実験結果(特定の化合物を活性成分とする日焼け止めが優れた作用効果を奏することのデータ)を参酌してもよいとした。


 論考は、判決の結論に疑問を呈しつつ「境界事例である」としている。もっとも、「後出し」というタイトル自体が、批判の意図が表現されていると思われる。たしかに、この事案はちょっとどうだったかなという所がありそうである。


 出願後の実験データの提出については、サポート要件に関してであるが、知財高裁平成17年11月11日判決が有名である。同判決は次のように判示している。



発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。





 化学の分野で特許権者側を代理して無効審判をやると感じるが、出願後の実験結果の提出が一切ダメと言われるとどうしようもないということがある。多少は認めてもらわないと困るが、線引きは難しいところである。