建築の著作物 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 以前、「写真」は常に著作物となるわけではないという話をした。著作権法10条で「著作物」として例示されているにもかかわらず、である。


 同じようなことが「建築」にも言える。「建築」は著作権法10条で「著作物」として例示されているが、常に著作物となるわけではない。というより、現在の裁判所の考え方からすれば、ほとんどの建築は著作物にならない、と言ったら驚かれるであろうか。でもそれが事実である。


 普通のデザインのビルとか住宅のようなものは、ほとんど著作物にならない。著作物になるのは、かなり奇抜ないし芸術的なデザインのものだけである。建築家が設計したからといって常に著作物になるとも限らない。


 まして大手住宅メーカーが設計したような住宅は、まず著作物にならない(大阪地裁平成15年10月30日判決・判例時報1861号110頁)。この裁判の事案ではグッドデザイン賞を受賞していたのであるが、それでも著作物ではないとされた。



 「建築の著作物」というのは、あくまで無体物(カタチのない抽象物)であり、現にできあがった建物が著作物になるのではない。だから建築設計図面には、図面の著作物としての側面と、建築の著作物としての側面がある。

 建築設計図面を、図面として他人が複製すれば、図面の著作物の複製権侵害にはなる可能性が高い。

 建築設計図面に基づいて他人が建物を建てた場合、著作権法では複製権侵害になる(2条1項15号ロ)ように見える。しかし、それは図面の中身である建築が(奇抜ないし芸術的であって)著作物と認められるときのみである。

 できあがった建物を他人がまねして類似のデザインの建物を建てた場合も、「建築の著作物」である場合には、複製権侵害となる。


 建物を他人が勝手に写真撮影する行為は、それが建築の著作物である場合、形式的には複製権侵害になるが、著作権法46条により免責される。


 出版・印刷業界では、よく「建物を構図の中心に据えて無断撮影すると違法。風景の一部になっていればOK。」と言われるのであるが、実は法律上の根拠はない。もっとも、トラブルを回避するため安全策を採るという観点では、悪くない考え方ではある。