職務発明訴訟の最近の論点 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 職務発明の相当の対価請求訴訟にはいろいろな論点があるが、最近では


(1)他社に実施許諾している場合において、自己実施に基づく独占の利益は存在するか。存在するとして、その算定にあたって考慮すべき要素は何か。


(2)自己実施に基づく独占の利益の算定において、超過売上高に乗じるのは仮想実施料率か、対象製品の利益率か。


(3)使用者からの特許無効の主張を認めるべきか。認めるとしても、特許が無効になるまでに現に使用者が得ていた利益をどう評価するか。


といったところがホットな話題かと思う。


(1)につき、使用者側が妥当と考えているのは東京地裁平成18年6月8日(三菱電機)、東京地裁平成19年2月26日(キヤノン)などの、設楽裁判長の方式である。使用者側としては、開放的ライセンスポリシーを取っており、かつ代替技術が存在すれば、自己実施に基づく独占の利益は存在しないと主張したい。

 これに対して知財高裁平成21年2月26日(キヤノン)、知財高裁平成21年6月25日(ブラザー工業)が、50~60%の減額を原則とする(よって、開放的ライセンスポリシーを取っており、かつ代替技術が存在するというだけでは、ゼロにならない)中野裁判長方式であり、物議を醸している。キヤノンの上告は棄却されてしまった。


(2)につき、東京地裁平成19年6月27日(東芝)およびその控訴審(知財高裁平成20年2月21日)があるが、この事案では、いずれの当事者も仮想実施料率を主張していたのに、裁判所がいきなり利益率を適用し、しかも根拠もなく10%としたものであり、議論が深まるのは今後である。


(3)については、前掲のブラザー工業事件がある。使用者からの無効主張自体は原則として認め、仮想実施料率の算定に影響するという。ブラザー工業事件は(1)~(3)のすべての論点に関係している。


 ブラザー工業事件の知財高裁判決を見ると、使用者側において、対象製品に他の多数の特許が使われていることを主張・立証し、それに対して、従業者側がその特許の有効性を争うということをやっている。そのため判決が本文だけで500頁近くに及ぶ。こういうことをやる事案は珍しいと思う。

 しかし相当の対価の算定なんて所詮、ある程度のフィクションが入ることは避けられないわけだから、こんなことまでやる意味があるのかと一抹の疑問を感じる。