会社分割の濫用 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 債務超過に陥っている倒産状態にある会社が、会社分割のスキームを用いて、優良な事業部門の資産と、当該部門の取引先に対する債務のみを新設会社に承継させ、その他の不良資産や債務(金融機関からの借入債務を含む)は承継しないという「事業再建」手法が行われている。


 こういうおそれがあるので長らく会社分割という制度自体がなかったとも言われるが、今現在、問題になっているということは、平成12年商法改正時の手当てが十分でなかったということであろうか。


 難波孝一「会社分割の濫用を巡る諸問題」判例タイムズ1337号20頁がこの問題を詳しく扱っており、ざっと拝見しただけだが、なかなか面白かった。判例時報2136号70頁における名古屋地裁平成23年7月22日判決の解説で紹介していたので、取り寄せて読んで見たのである。


 名古屋地裁平成23年7月22日判決は、元の会社(新設分割会社)の債権者である銀行が新設分割設立会社に対して債務の履行を求めた事案で、詐害行為取消権の行使を認め、「・・・の会社分割を金いくらの限度で取り消す。被告は、原告に対し、金いくら・・・を支払え。」という主文を出した。


 他にも、会社分割無効の訴えを起こしたり、会社法22条(譲渡会社の商号を続用した譲受会社の責任)を類推適用したりといった対抗手段がある。


 難波論文では、「近時、経営コンサルタント、税理士、司法書士、弁護士等の指導のもとに」こういう「事業再建」手法が行われているとするが、実際に多いのは「経営コンサルタント」ではないか。法律知識のない者にこういうことを依頼する方が悪いとも言えるが、かと言って大多数の弁護士はすぐ破産や民事再生申立を薦めるので役に立たないというのも事実。弁護士側にも責任の一端がある。


 いずれにしても「会社分割」は魔法の杖ではない。うまい話にはご注意を。