米国ITCによる限定的排除命令の範囲 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 昨日の続き。

 

 講師の松本直樹先生からさっそくメールをいただいた。恐縮です。


 松本先生のブログはこちら。

http://nmat.cocolog-nifty.com/


 昨日の話題は範囲が広くてとても全部は紹介できないが、CAFCの京セラ事件(2008年10月14日)について原文を読んでみたので、そこだけ紹介したい。


 ITCにおいてブロードコムがクァルコムを特許権侵害で訴え、クァルコム製の半導体製品を組みこんだ携帯デバイスなどのメーカー各社の製品が特許権を侵害しているとして、メーカー各社の製品について限定的排除命令(輸入差止の一種)が出された。(なおクァルコムについては、間接侵害のみが問題となっている。)しかし、ITCの手続ではクァルコムのみが被申立人となっており、メーカー各社は被申立人になっていなかった。


 ITCが出したLEOによる排除対象は以下のとおりであった。

“[h]andheld wireless communications devices, including cellular telephone handsets and PDAs, containing Qualcomm baseband processor chips or chipsets that are programmed to enable the power saving features covered by claims 1, 4, 8, 9, or 11 of U.S. Patent No. 6,714,983, wherein the chips or chipsets are manufactured abroad by or on behalf of Qualcomm Incorporated.”

(試訳:クァルコム製のベースバンド・プロセッサ・チップまたはチップセットであって、米国特許6,714,983の請求項1,4,8,9,または11でカバーされる電力セーブの特徴を可能とするようにプログラムされたものを含む携帯電話端末、PDA等の携帯ワイヤレス通信機器であり、チップまたはチップセットがクァルコムによりまたはクァルコムのために海外で製造されたもの)


 判旨は、関税法337条による限定的排除命令では、ITCの手続で被申立人(respondant)とされた者の製品のみを排除でき、被申立人から製品を購入して自己の製品に組み込んだ者の製品については限定的排除命令を使うことはできない(一般的排除命令を用いなければならない)というもの。


 上記の主文では、排除対象はクァルコム製の半導体製品を組みこんだメーカー各社の製品であって、クァルコム製品ではない。だから違法であるとして取り消された。

 関税法337条は、「限定的排除命令」limited exclusion order (LEO)と「一般的排除命令」general exclusion order (GEO)の2つの排除命令を定めている。LEOが原則で、GEOは要件が加重されている。簡単に言うと、特定のメーカーの製品のみを対象とするのがLEO,そのような限定がないのがGEOである。


(d) Exclusion of articles from entry
(1)
(2) The authority of the Commission to order an exclusion from entry of articles shall be limited to persons determined by the Commission to be violating this section unless the Commission determines that—
(A) a general exclusion from entry of articles is necessary to prevent circumvention of an exclusion order limited to products of named persons; or
(B) there is a pattern of violation of this section and it is difficult to identify the source of infringing products.


(A)または(B)の場合でない限り、委員会による製品(articles)の排除命令の権限は「委員会によって本条に違反していると認定された者(persons)に限定される」と書いてある。

 しかし、LEOであろうとGEOであろうと、あくまで輸入禁止の対象は「製品」(artcles)なのであって人ではない。ここがややこしい。条文を素直に読むと、LEOであっても、誰の製品であるかが特定されていれば足り(ブロードコムはそれが可能であったはずだが、ITCでは敢えてしなかったようである)、特定された者(persons)であれば、別に被申立人でなくてもよい、とも読める。実際、それがITCの運用であった(と思われる)。

 そのような解釈をCAFCは否定したのである。しかし松本先生によると、この判決後もITCの実務が直ちに改まったというわけではないようである。

 判決全文はこちら。

  http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/07-1493.pdf


 関税法337条の条文はこちら。

  http://www4.law.cornell.edu/uscode/html/uscode19/usc_sec_19_00001337----000-.html