会社分割の法的性質 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 企業からの法律相談を受ける中で、会社分割の話が出てくることが多い。

 

 江頭先生の教科書では、「会社分割による権利義務の承継は、合併と同じく一般承継」であるから、契約上の地位も会社分割に伴い相手方の同意なく承継される、ただし相手方に解除権、損害賠償請求権が発生するのは別論、としている。


 これが多分スタンダードな考え方だとは思うが、神田先生の教科書では「合併と異なり、分割会社は分割後も存続するので、包括承継という概念を使うのは必ずしも適切でなく」としている。神田先生は「一般承継」という用語は使っていない。


 また神戸大の近藤先生の本では「会社分割により権利・義務は包括的に移転するが、対抗要件については個々に満たしておく必要がある」とする。


 分割会社が分割後も存続する点において合併とは異なるという留保は、江頭先生もつけている。


 相続や合併の場合は「対抗」関係にならず、対抗要件は問題にならない。対抗要件を満たすことが必要との見解は他の論者も唱えているようで、「会社分割は一般承継である」という説明は、誤りではないが正しいとも言えないような感じだ。


 特許法にも「相続その他の一般承継」という表現がよく出てくるが、会社分割はこれに含まれるのかと聞かれても困る。ケースバイケースではないか。実は特許法の注釈書を執筆していて、私の担当部分にこの問題が生じて、「会社法上、議論がある」として逃げるしかなかった。特許法を制定したとき、会社分割という制度はなかった(平成12年の商法改正で導入された)のだから、何が正解というわけでもないだろう。


 なお、旧商法では、会社分割では「営業」(現行の会社法の言葉では「事業」に相当)の全部または一部を承継するものとされていたのに対し、現行の会社法では「事業に関して有する権利義務」の全部または一部を承継するものと変更された。

 江頭先生は、この相違に意味を持たせようとしているのだが、神田先生の本では、実質的な相違はないかのような書き方をしていた。しかし、新しい版では記述が変わっており、神田先生は見解を改められたのかもしれない。