明示的一部請求の時効中断の効力 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 

 請求原因においては1億円の損害賠償請求権を有するとしながら、請求の趣旨においては「被告は原告に対して金2000万円を支払え」とするような明示的一部請求というのは、侵害訴訟などでもよくある。提訴の段階では帰趨が読めないので、印紙代の節約のためだ。


 しかし最高裁平成25年6月6日第一小法廷判決・民集67巻5号1208頁は、明示的一部請求に対して、非常に厳しい態度を取っている。


 判旨1は、残部について裁判上の請求に準じるものとして消滅時効の中断の効力を生じるものではないという点。これは、まあよい。


 判旨2は、①残部について、特段の事情のない限り裁判上の催告としての効力を生じる、②訴訟の終了後6か月以内に残部についても提訴すれば時効中断の効力を生じるという点。これもよい。


 問題は判旨3で、①催告(第1の催告)した後、6か月以内にまた催告(第2の催告)しても意味なし、②この理は第2の催告が明示的一部請求による提訴であっても同じ、とした。


 この判例の事案では、第1の催告(裁判外の催告)が先行していたため、明示的一部請求をした訴訟の係属中に別訴を提起したにもかかわらず、判旨3のゆえに時効は完成しているとされてしまった。


 判旨2-②で「訴訟の終了後6か月以内」に民法153条所定の措置を講ずればOKと言っていることと矛盾するようだが、よく読むと矛盾しない。


 つまり、警告状を先に送った(第1の催告)場合は、一部請求というのは駄目なのだ。「催告+催告」は第2の催告の効力が認められないから、残部について、訴訟係属中に時効が完成してしまう。


 これに対して、いきなり提訴した場合は、訴訟の終了後6か月以内に残部について提訴すればよい。


 これでは、警告状を送らずにいきなり提訴することを奨励しているようなものではないか。いや権利者の代理人としては、そうしなければならない。


 最高裁の判例解説を読むと、今般の民法改正でこの点を改善する(残部についても時効中断の効力を認めるか、少なくとも訴訟係属中は時効完成しない)提案もあったそうだが、結局、解釈にゆだねることになって、この論点に係る改正はされていない。


 


判旨2 「明示的一部請求の訴えが提起された場合、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。」


 判旨3「もっとも、催告は、6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなければ、時効の中断の効力を生じないのであって、催告から6箇月以内に再び催告をしたにすぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば、催告が繰り返された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず、時効期間が定められた趣旨に反し、相当ではない。
  したがって、消滅時効期間が経過した後、その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても、第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は、第1の催告から6箇月を経過することにより、消滅時効が完成するというべきである。この理は、第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。」