特許権侵害訴訟における訂正の再抗弁 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 私の知る限りでは東京地裁平成19年2月27日判決・判例タイムズ1253号241頁がリーディングケースと思うのだが、特許法104条の3の抗弁に対して、特許権者は、①訂正請求または訂正審判の請求をしたこと、②当該訂正が(独立特許要件以外の)訂正要件(126条1項、3項、4項の要件)を満たすこと、③当該訂正によって無効理由が解消されること、④訂正後もなお、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属すること、について主張・立証することができるとされ、これを普通、「訂正の再抗弁」という。


 「再抗弁」なのか「予備的請求原因」なのかという議論はあるが、どちらでも良いのではないかと思う。この点の判断を避けて、最高裁平成20年4月24日判決は、単に「対抗主張」と呼んでいる(L&T41号122頁以下の和久田道雄調査官の解説、126頁の脚注2)。


 ただし、最高裁平成20年4月24日判決は、直接的には、「対抗主張」についても104条の3,2項の趣旨に照らして却下の対象となると判示したものである。したがって、訂正の再抗弁ができること自体を判示したのではない。もっとも、普通に読めば、判断の前提としている、と思われる。


 村林弁護士は、知財ぷりずむ9巻98号(2010年11月号)36頁以下の論説において、訂正の再抗弁を認めるべきでないという少数説を展開している。その根拠は、104条の3の立法時にそういうことは予定していなかったということのようである。たしかに当時、キルビー判決が「特段の事情」としていたのは一般に特許権者が訂正をしたような場合とされており、当時の立法資料にも、今後、そのような事情は「特段の事情」にあたらないという記述もあった(ただし根拠は不明)。


 村林先生の論稿はキルビー判決の先例拘束性ある部分はどこかという観点で書かれているのだが、特許法104条の3は無効の抗弁ではないとか、どうにも私の理解を超えている。


 なお関連論点として、特許法104条の3の抗弁を認めて非侵害の判決が確定した後、特許請求の範囲の減縮を認める訂正審決が確定した場合、再審事由(民訴法338条1項8号)となるか、というのがある。


 最高裁平成20年4月24日判決は、判断を避け、「再審事由が存するものと解される余地がある」としているだけである(前掲L&T和久田解説のほか、別冊ジュリスト平成20年度重要判例解説303頁以下の小島立教授の評釈などを参照)。


 紛らわしいが、特許を無効とする審決の取消請求が棄却された後、上告審の係属中に特許請求の範囲の減縮を認める訂正審決が確定した場合は再審事由となり、最高裁は民訴法325条2項の「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」があるものとして破棄差戻しできる(最高裁平成15年10月31日判決。ただし特許を取り消すべき旨の特許異議決定の事案)。なお最高裁平成17年10月18日判決は、原審に差し戻すまでもなく自判(最高裁が直接、審決を取り消す)できるとしている。


 平成15年改正以降の現行特許法では、審決取消訴訟の係属中の訂正審判請求が原則としてできなくなったので、こういうシチュエーション自体が生じにくいと言われている。もっとも、無効審決に対する審決取消訴訟の提起から90日以内に訂正審判を請求(特許法126条2項但書)したものの、181条2項の決定による審決取消が認められず、その結果、訂正審判がそのまま残り、知財高裁も「無効」と判断して請求棄却判決がなされ、その後に訂正を認める審決が出された、という場合が一応考えられる。一応考えられるが、現実にはありそうもない(181条2項の決定による審決取消が認められなかった時点で、特許庁も訂正を認めない可能性が高いし、知財高裁の判決より先に訂正を認めない審決が出ることが多いのではないか)。